【特集】アイアンマン、脅威との対峙 ― 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』トニー・スタークの変遷、人間としての実像

映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』は、2008年『アイアンマン』に始まったマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の集大成だ。10年以上にわたってその最前線を走ってきたのが、トニー・スターク/アイアンマンを演じるロバート・ダウニー・Jr.である。
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)でスティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカと対立したトニーは、本作でヒーローたちとの新しい出会いを経て、史上最凶のヴィラン、サノスとの対決に挑む。
ヒーローたちとの対立で受けた傷は、トニーにどんな変化を与えたのだろうか。また彼は、恐るべき脅威として地球に襲いかかるサノスをどう捉えており、そしてどのように立ち向かっていくのか。アイアンマンの周囲に新たに現れた、あるいは戻ってきたキャラクターとの関係性も気になるところだ。本記事では、一人の人間としてのトニー・スターク/アイアンマンの実像に迫っていきたい。
天才実業家が予感してきた「脅威」
天才発明家にして億万長者の実業家、トニー・スタークは、もともとビジネスとして武器を開発し取引する男だった。傲慢で自分の能力を過信してきた彼は、ある時アフガニスタンで拘束されたことをきっかけに自分の生命や仕事に関する価値観をすべて改めるようになる。自身の開発したスーツで巨悪と戦った彼は、S.H.I.E.L.D.の忠告をよそに「私がアイアンマンだ」と宣言。それから彼は最新技術を駆使してヒーロー活動を展開、かつては自分の心臓を動かすために必要だったアーク・リアクターもついには必要なくなったのである。
キャプテン・アメリカやソー、ブラック・ウィドウら強力なヒーローたちを束ねる「アベンジャーズ」の筆頭者であるトニーは、これまで世界の脅威を予感しつづけてきた人物だった。特に顕著なのは、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)にて、ワンダ・マキシモフ/スカーレット・ウィッチに見せられた幻覚に映し出された“アベンジャーズ全滅”のイメージだろう。いずれヒーローにも太刀打ちできない脅威がやってくる……その予感は、人工知能J.A.R.V.I.S.にヴィジョンという肉体を与えることに繋がり、そして別の脅威であるウルトロンを生み出すことにもなってしまった。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を手がけたアンソニー・ルッソ監督は、トニーによる脅威の察知と、本作におけるサノスの襲来には浅からぬ関係があることを示唆している。
「サノスはトニーとの間に一番強い繋がりがあると思いますね。なぜならトニーは未来について考え、サノスのような脅威を予測していたわけですから。名前こそ付けられないものの、彼の頭には(脅威の存在が)あったんですよ。
何者なのか、どこから来たかにかかわらず、すべてのヒーローが脅威に対峙しますが、トニーは最も懸命かつ徹底的にサノスのような存在に反抗します。これこそトニーの内面に本来備わっているものだと思うんです。アイアンマンとしてすべてを始めた時から、彼と脅威の間には特別な繋がりがあるんですよ。」
キャプテン・アメリカとの対立、『シビル・ウォー』以降
トニーは脅威への予感とは別に、自身のヒーロー活動に対して責任感と罪悪感を抱くようにもなっている。
『エイジ・オブ・ウルトロン』でソコヴィアの住民が多大なる被害を被ったこと、その他ヒーロー活動によって一般市民に影響が出ていることから、『シビル・ウォー』ではヒーローを国連の監視下に置くという「ソコヴィア協定」が提示されたが、トニーはこれに賛成する立場を取ったのだ。しかしキャプテン・アメリカとは協定をめぐって対立し、さらに両親がバッキー・バーンズ/ウィンター・ソルジャーに殺害されていたことで、二人の間には大きな亀裂が入ってしまう。