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【特集】サノスと4人の「子どもたち」 ― 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』史上最凶ヴィランの背景、コミックとの関係を読む

マーベル・シネマティック・ユニバース史上最大のイベントには、史上最凶のヴィランを。映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』に登場するのは、ある信念を持って世界の半分を消滅させようとしている闇の帝王サノスである。
本記事では、すでに劇場公開を迎えた本作で恐るべき力を観客に見せつけたサノスと、その手下である4人の「子供たち」について改めて復習してみることにしよう。
なお、本記事に『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の事前プロモーション以上の情報は一切含まれていない。

マーベル・シネマティック・ユニバースとサノスの関係

マーベル・コミックの世界にサノスが初めて登場したのは1973年。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』に原案として使用された傑作コミック『インフィニティ・ガントレット』(小学館集英社プロダクション刊)をのちに手がけるジム・スターリンと、ライターのマイク・フリードリヒによって生み出されたこのキャラクターは、各年代のコミック作品でその脅威をヒーローたちに示してきた。

そんなサノスがマーベル・シネマティック・ユニバースに姿を見せたのは、映画『アベンジャーズ』(2012)のポストクレジットシーン。同作ではダミオン・ポワチエが演じたこのヴィランは、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)にも登場し、ガモーラ、ネビュラという娘がいることを明かした。
そして『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)のポストクレジットシーンでは、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で大々的にフィーチャーされるガントレットを装着。サノスが求めるのは、単独でもすさまじい力を持つ6種類のインフィニティ・ストーン。そのすべてを集めれば、指を鳴らすだけで世界の半分が消滅する……。

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のサノスをめぐるストーリーは、主に『インフィニティ・ガントレット』から大きな着想を得ている。またジョナサン・ヒックマン渾身の作である『インフィニティ』(ヴィレッジブックス刊)において、サノスは物語を裏側から支えるような暗躍ぶりを見せ、もちろんヒーローたちとも激突。『インフィニティ・ガントレット』とは大きく異なる内容ながら、こちらの描写や表現も映画に与えているため、ご興味がおありの方はぜひご一読いただきたい。

なおアンソニー&ジョー・ルッソ監督は、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のサノスを「新世代のダース・ベイダーにしたい」語っていた。二人はサノスを主人公の一人として捉え、彼がインフィニティ・ストーンの強奪を企てる強盗映画としての側面を強調してもいるのだ。ちなみに本作に影響を与えた3本の映画については、こちらの記事をご覧いただきたい。

描かれざるサノスの物語、そして理想のヴィラン像

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』では、本編からサノスのオリジン・ストーリーが削除されている。コミック『サノス・ライジング』(小学館集英社プロダクション刊)に描かれたものに近い内容が想定されていたようだが、アンソニー監督いわく「この映画には必要ないと思った」として、本編からは失われているのだ。
映画のストーリーに関わるため、本記事ではその内容について省略するが、詳細は監督やマーベル・スタジオ社長のケヴィン・ファイギらの口から語られている。詳しくお知りになりたい方は、こちらの記事12をお読みいただければ幸いである。

しかし本作におけるサノス像は、ルッソ監督や脚本を執筆したクリストファー・マルクス&スティーブン・マクフィーリーの証言にも十分表れている。すでに本作を観た方ならば、「そういうことか」ときっとご納得いただけるに違いない。

ジョー: 僕たちは、悪役として非常に豊かな背景があり、現実的なドラマが秘められている、そんな複雑なヴィランが好きなんです。[中略]あらゆるヴィランのストーリーにおいて、彼らはヒーローなんです。彼ら自身の見方でいえばみんな正しい。ヴィランが複雑であるほど、ヒーローも複雑になり、結果としてストーリーが面白くなるんです。

スティーヴン: サノスはインフィニティ・ストーンを集める冷酷なマシンではない、ということを描くのは大きな挑戦でした。[中略]自分の望みを叶えるために決断せねばならないという意味で、彼は従来のヒーローと同じ重みを背負うことになるでしょう

クリストファー: 物語を引っ張るために物事をわかりやすくしたくはなくて、“彼はああしたけど、僕ならそうはしなかったかも”というような状況を維持したかった。(登場人物の)全員をそうしていくと、彼らが目的を達成した後に“あっ、こうすべきじゃなかった”って気づくまで、ヒーローとヴィランは似た者同士になるんですよね。

サノスをモーション・キャプチャーで演じるジョシュ・ブローリンは、自身の役柄を「知性的なキャラクター」だと述べている。ちなみに撮影現場で、ジョー監督はサノスの人物像をジョシュに説明するために『ゴッドファーザー』(1972)を参照するなど工夫を凝らして演出を付けていったそうだ。

4人の「サノスの子どもたち」

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』には、予告編にもみられるように、サノスの手下としてヒーローと対決する4人の「子どもたち」が登場する。いずれも凄まじい戦闘能力でヒーローを圧倒するヴィランだが、彼らの初登場は前述のコミック『インフィニティ』。カル・オブシディアン(別名ブラック・オーダー)という名称だが、映画にその名称は引き継がれていない。

映画に登場するのは、物理的攻撃ではなく特殊能力を操るエボニー・モウ(トム・ヴォーン・ロウラー)、槍を操る女性戦士プロキシマ・ミッドナイト(キャリー・クーン)、長い槍剣を武器とする残忍な兵士コーヴァス・グレイヴ(マイケル・ジェームズ・ショー)、そして巨体を駆使して戦うカル・オブシディアン(テリー・ノタリー)だ。
コミック『インフィニティ』には、この4人に加えてスーパージャイアントという人物が存在するが、映画では採用されていない。またカル・オブシディアンはコミックで「ブラックドワーフ」という名前だが、映画化にあたって名前を変更されている。前述の通り、カル・オブシディアンとは『インフィニティ』においては集団全体を指す名称である。

あえてコミックと比較するならば、特筆すべきは、『インフィニティ』で描かれる「子どもたち」の人物像やサノスとの関係性、そして『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』におけるそれらの描写がどのように異なるかという点だろう。コミックにおいて、サノスはブラック・オーダーとの間に冷徹なまでの上下関係を敷いており、時に非常に厳しく接するのである。ぜひ両方を比べて、ルッソ監督らによるキャラクターの解釈を深く味わってほしい。

ジョシュ・ブローリン

ジョシュ・ブローリン
Photo by Gage Skidmore ( https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/14609924158/ )

1968年生まれのジョシュ・ブローリンは1980年代前半から俳優活動を開始、1985年の映画『グーニーズ』でブランドン・ウォルシュ役を演じている。その後、テレビや映画などで活動を重ねてきた彼は、ギレルモ・デル・トロ監督作品『ミミック』(1995)やポール・バーホーベン監督作品『インビジブル』(2000)などに出演。

その実力がハリウッドで大きな注目を浴び始めたのは2000年代後半からで、『ノーカントリー』(2007)や『アメリカン・ギャングスター』(2007)、『ブッシュ』(2008)、『ミルク』(2008)と相次いで出演作品での演技が評価され、数多くの映画賞にノミネートされている。その後も『トゥルー・グリット』(2010)や『メン・イン・ブラック3』(2012)、『オールド・ボーイ』(2013)、『インヒアレント・ヴァイス』(2014)、『ボーダーライン』(2015)、『ヘイル、シーザー!』(2016)などジャンルを問わず多数の映画に出演。強烈な存在感と演技力で、作品に確かな爪痕を残し続けている。

コミックファンの間で大きな話題を呼んだのは、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でサノスを演じるかたわら、『デッドプール2』(6月1日公開)で人気キャラクターのケーブルを演じていることだ。ユニバースをまたいでマーベルの重要人物にそれぞれ扮するとあって、今後も含めてさらなる注目が集まることは間違いないだろう。

映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』公式サイト:http://cpn.disney.co.jp/avengers-iw/

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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