『未来世紀ブラジル』『12モンキーズ』『Dr.パルナサスの鏡』など、充実したフィルモグラフィと類まれなる作家性で名を馳せる鬼才テリー・ギリアムが、ついに新作『ドン・キホーテを殺した男（原題：The Man Who Killed Don Quixote）』の撮影を終了したことを報告した。

本作は2000年にジャン・ロシュフォールとジョニー・デップの主演で製作が開始されたものの、複数の理由から撮影を打ち切られていた。その後もギリアムは幾度となく製作に挑みながらも、そのたびに実現してこなかった、いわば本作は“悲願の新作”である。撮影が完了したという知らせは、ファンならずとも一連のエピソードを知る者には感慨深いだろう。

長い間報告せずに申し訳なかった。トラックに荷積みをするので忙しくて、今は家に帰っているところなんだ。17年経って、『ドン・キホーテを殺した男』の撮影を完了したよ。チームのみんな、そして信じてくれた人たち、本当にありがとう。ビバ、ドン・キホーテ！

本作『ドン・キホーテを殺した男』は、タイトル通りセルバンテスによる文学作品『ドン・キホーテ』を翻案したもの。舞台は現代で、物語はCM監督トビー・グリソーニが、『ドン・キホーテ』をもとにした老学生の映画を盗作しようと考えたところからはじまる。トビーは老学生とともに、彼がかつて映画を撮った古いスペインの村を訪れるが、そこでトビーは悲惨な出来事と冒険に巻き込まれて……。

ついに撮影終了した本作でドン・キホーテ役を演じるのは『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズでウェザビー・スワン総督を演じたジョナサン・プライス。トビー・グリソーニ役は『スター・ウォーズ』新3部作のアダム・ドライバーが務める。また、オルガ・キュリレンコやステラン・スカルスガルドのほか、撮影が行われたスペインで活躍する俳優陣が出演しているとのことだ。

『ドン・キホーテを殺した男』これまでの経緯

本作『ドン・キホーテを殺した男』に、ギリアムは過去19年で8回挑んでいるという。その始まりとなったのは、1998年に企画され、ジャン・ロシュフォール（ドン・キホーテ役）とジョニー・デップ（トビー役）のタッグで撮影が開始された「2000年版」である。撮影2日目に洪水で撮影現場が崩壊、未撮影のシーンを多く残す中で景観が大きく変わってしまったために全編の撮り直しを強いられたうえ、その直後にはロシュフォールが降板して製作は打ち切られている。そのあまりに悲惨な顛末は、2002年に『ロスト・イン・ラ・マンチャ』としてドキュメンタリー映画化された。

その後ギリアムは、2005年から2015年までにも企画を幾度も立ち上げ直し、あらゆる俳優をキャスティングしようと試みたようだ。ドン・キホーテ役にロバート・デュバルやマイケル・ペイリン、ジョン・ハート、そしてトビー役にはジョニー・デップ、ユアン・マクレガー、ジャック・オコンネルといった名前が候補に上がりながらも、主に資金面の理由から製作は開始されていない。

今回、ギリアムが無事に撮影完了までこぎつけられたことには、米国Amazonの映像制作部門、Amazon Studiosが多額の出資を行ったという背景があるという。未だ製作チームとAmazon Studiosの間には問題が残っているというが、ともかく『ドン・キホーテを殺した男』は撮影を完了し、このあと編集などポスト・プロダクション作業に入っていくことになる。劇場公開時期は未定だが、おそらく2018年内にはスクリーンで観られるのではないだろうか。

あまりに長い映画製作も、少しずつ終わりが見えてきた……といったところであろう。しかしこれまで何度も頓挫した本作である、今度こそ無事に最後まで作り上げられることを心から祈りたい。

Sources: http://theplaylist.net/terry-gilliam-wrapped-filming-man-killed-don-quixote-20170604/
http://screenrant.com/man-killed-don-quixote-terry-gilliam-filming-finish/
Eyecatch Image: https://www.amazon.co.jp/Lost-Mancha-Soundtrack-Miriam-Cutler/dp/B003YOE302/