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もう「ヒーテッド・ライバルリー」を知らない自分に戻れない ─ スポ根×クィア・ロマンスが描く、「男らしさ」のその先

ヒーテッド・ライバルリー
© 2025 Heated Rivalry Productions 1 (Ontario) Inc. / © 2025 Productions Heated Rivalry 1 (Québec) Inc. All r ights reserved

心身ともにアイスホッケー選手が背負う“ボーイズ・ドント・クライ”

カナダでは2005年から同性婚が合法化されており、世界でも有数のLGBTQ+フレンドリーな国として知られている。とはいえ、国民的スポーツであるアイスホッケーは男性性を象徴する存在でもあり、“ボーイズ・ドント・クライ”の精神を体現している選手が、セクシュアリティをオープンにするには覚悟が必要だ。シェーンは献身的で全力でサポートしてくれる両親のもとに育つ一方で、模範的なアジア系のロールモデルを期待されるプレッシャーを大なり小なり抱え、対するイリヤは祖国を離れても、家族の支配や搾取から自由にはなれない。

ヒーテッド・ライバルリー
© 2025 Heated Rivalry Productions 1 (Ontario) Inc. / © 2025 Productions Heated Rivalry 1 (Québec) Inc. All r ights reserved

登場人物がアイスホッケーをプレイするクィア作品に、ルーカス・ドン監督による『CLOSE/クロース』(2022)がある。ドン監督が登壇したジャパン・プレミア上映に参加した筆者は、「数あるコンタクト・スポーツの中からなぜアイスホッケーをモチーフに選んだのか」と質問した。ドン監督が、プレイヤーたちが身に着ける防具は甲冑のように自分を守ると同時に、他者の接触を許さないものにもなっていると説明してくれたことは、シェーンやイリヤが抑圧を感じながらも、弱音を吐かず、キャプテンとしてチームを鼓舞する姿に重なるところがある。

もっとも、「ヒーテッド・ライバルリー」はアイスホッケーを過剰に美化せず、その熱狂に伴うリスクも含めて映し出していることが非常に誠実で、その1つが脳しんとうだ。頭部への衝撃によって生じる脳の一時的な機能障害は、頭痛やめまいだけでなく、不安感や気分の落ち込みといった症状を伴うこともある。また、長期間にわたって頭部への衝撃を繰り返し受けることは、慢性外傷性脳症(CTE)との関連も指摘されている。ウィル・スミス主演の『コンカッション』(2015)は、元NFL選手マイク・ウェブスターの死後脳からCTEを発見した病理医ベネット・オマルの実話をもとにした作品だ。アイスホッケー選手たちも、栄光の陰では、いつ身に降りかかるか分からない苦痛と常に隣り合わせにある。

ヒーテッド・ライバルリー
© 2025 Heated Rivalry Productions 1 (Ontario) Inc. / © 2025 Productions Heated Rivalry 1 (Québec) Inc. All r ights reserved

言葉と言葉以外で交わすコミュニケーション

タフだけれど孤独な2人のやり取りの多くはぶっきらぼうでそっけなく、どこかかみ合わないところもある。“Are you scared?(怖いか?)” “I’m not scared(怖くない)”、“You missed me, didn’t you?(俺が恋しかった?)” “I f**king didn’t(全然)”など、オウム返しのようなセリフの応酬が印象的だ。シェーンは内省的で(ドラマ内で直接触れられることはないが、ウィリアムズによれば、原作者のリードはシェーンを自閉スペクトラム症の人物として設定しているという)、イリヤは英語を母語としない設定でもあるが、照れ隠しから気持ちとは裏腹に悪態をつき、ボーイズクラブなノリで相手をからかうのは、真意を率直に伝え合う語彙を持たない環境に置かれていることの顕れでもある。しかし、時に感情を真正面からぶつける彼らの視線や表情が言葉以上に饒舌に語る場面もある。

こうして2人が互いへの理解を深めていく過程に、世界中の視聴者が夢中になり、巨大なファンダムを獲得したのだろうし、筆者ももれなく後に続いた。大胆な性描写も大きな話題だったが、何かを手に入れるために、また別の何かを手放していく選択の連続が、トキシック・マスキュリニティからの解放だと気づいたとき、これこそがずっと見たかった物語だと腑に落ちた。

ヒーテッド・ライバルリー
© 2025 Heated Rivalry Productions 1 (Ontario) Inc. / © 2025 Productions Heated Rivalry 1 (Québec) Inc. All r ights reserved

ウェイターからトップメゾンのアンバサダーへ。“SEX SELLS”を刻んだゴールデン・ボーイズ

シェーンとイリヤの長きにわたる関係は激しく濃厚だが、ウェットになりすぎないバランスが心地よい。社会問題に踏み込みつつも、軽妙でポップなバランスを保っているのは、主演2人の豊かな表情とフレッシュな魅力につきる。ウィリアムズもストーリーも本作の起用ギリギリまで、ともにウェイターの仕事をするほどに俳優としてはまだ駆け出しだったが、一躍スターとなり、今やトップメゾン(ウィリアムズはバレンシアガとブルガリ、ストーリーはサンローランとティファニー)のアンバサダーも務めるゴールデン・ボーイズだ。

GQのカバーやVanity Fairのレッドカーペットなど、煽情的なビジュアルもたびたび話題を呼ぶが、2人ともセックスシンボルとして見られることを楽しんでいる印象がある。2人がお揃いで入れているタトゥーが“SEX SELLS(セックスは売りものになる)”なのも、自分たちの立ち位置に自覚的だからだろう。

Writer

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Yuka ShingaiYuka Shingai

携帯向け音楽配信事業にて社内SE、マーケティング業務に従事した後、妊娠・出産を機にフリーライターに転向。 映画とお酒と化粧品が好き。日課のオンライン英会話でもしょっちゅう映画の話をしています。

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