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トム・ヒドルストン『Tenzing』レビュー ─ エベレスト初登頂の「もう一人」に光を当てる迫力スリラー

Tenzing
Courtesy of TIFF.

エドモンド・ヒラリーの名前を知っている人は多いだろう。1953年、ニュージーランド出身のヒラリーはテンジン・ノルゲイとともに、人類史上初めてエベレスト登頂に成功した。

では、その隣にいたテンジン・ノルゲイは、どんな人物だったのか?その“答え”を描くのが、Apple TV映画『Tenzing(原題)』。第51回トロント国際映画祭(TIFF)ではカナダ・プレミアとして上映された。

監督は、オーストラリア出身のジェニファー・ピードム。実は彼女、エベレストとシェルパ(ヒマラヤ地域に暮らす民族で、登山ガイドなどとして高山登山を支えてきた人々)を長年撮り続けてきた人物でもある。2015年のドキュメンタリー『Sherpa(原題)』では、エベレストで働くシェルパたちに密着。2014年に起きた大規模な雪崩事故を捉え、国際的に高い評価を受けた。ピードム監督は、過酷な高山環境での撮影経験を生かし、今回はテンジンの物語を劇映画として描き出した。

Tenzing
Courtesy of TIFF.

テンジン・ノルゲイを演じるのはチベット出身の俳優ゲンデン・プンツォク。ヒラリー役には、マーベル・シネマティック・ユニバースのロキ役で知られるトム・ヒドルストン。さらに、『哀れなるものたち』などのウィレム・デフォーが遠征隊を率いるジョン・ハントを演じ、『アウトランダー』のカトリーナ・バルフが遠征隊の秘書ジル・ヘンダーソン役で出演している。

物語の主人公は、ヒマラヤで生まれ育った登山家テンジン・ノルゲイ。1930年代からイギリスのエベレスト遠征隊に参加し、長年にわたって世界最高峰への挑戦を続けてきた。それでも、約20年が過ぎても頂上にはたどり着いていなかった。そして1953年、ジョン・ハント(ウィレム・デフォー)率いる遠征隊に参加したテンジンは、エドモンド・ヒラリー(トム・ヒドルストン)とともに、ついにエベレストの頂上を目指すことになる。

劇場のスクリーンを通して強く感じたのは、何よりもエベレストという山そのものの恐ろしさだ。エベレストの雄大な景色には、思わず息をのむ。だが、見とれている暇はない。ヒラリーが口笛を吹きながら歩いている場面では、穏やかな空気が一転。突然、九死に一生を得るような出来事に巻き込まれる。ほんの一瞬前まで「美しい」と思っていた場所が、次の瞬間には命を奪いかねない場所へと変わる。「次に何が起こるかわからない」という意味では、どんなスリラー映画よりも迫力があった。

これまで、エベレストの過酷さや美しさを描いた映画は数多くあった。それでも『Tenzing』を観ていると、同じエベレストでも少し違って見えてくる。テンジンにとってチョモランマは、ただ頂上を目指すための場所ではない。そこには畏れも敬意もあり、言葉では簡単に説明できないほど深いつながりが本作では描かれている。

テンジンを演じるゲンデン・プンツォクの演技も本作を彩る重要な要素だ。登頂に至るまでの過酷な経験だけでなく、仲間たちと笑い合う姿など、テンジンの人の良さや人を思いやる気持ちも丁寧に映し出している。一方、登頂を果たした瞬間にテンジンが見せる複雑な表情には、胸を締めつけられるようなものがあった。ヒドルストンも、テンジンを引き立てる役割に徹している。

テンジンとヒラリーの友情物語というより、テンジンと山との関係を軸に描かれる本作。テンジンを「ヒラリーをエベレストに連れていったシェルパ」としてではなく、一人の登山家として、そして一人の人間として描いている。歴史的に名を残した人物の陰で、これまで十分に語られてこなかった「もう一人」の視点から、あの歴史的瞬間を見つめ直せることも、本作の大きな魅力だ。

『Tenzing』は米国で10月9日から一部劇場で公開され、10月16日からApple TVで世界配信される予定だ。日本公開日は未定。

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    Writer

    Ayaka SaitoAyaka Saito

    カナダ・トロント在住の映画レポーター/コラムニスト。北米で感じ取れる「ポップカルチャーへの熱」をお届けします。好きなジャンル:ホラー、好きなヒーロー:DCブルービートル。

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