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なぜ『ザ・バットマン』はオリジンを描かないのか?なぜバットモービルはマッスルカー調なのか?マット・リーヴス監督単独インタビュー

THE BATMAN-ザ・バットマン-
© 2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

全く新しいバットマンが始動する。『ダークナイト』トリロジー以来となるバットマン単独映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』が、2022年3月11日(金)に公開される。

ロバート・パティンソンを主演に据え、新たなバットマンを生み出したのは、『クローバーフィールド』『猿の惑星』といったシリーズで知られるマット・リーヴスだ。これまで時代ごとに製作されてきたバットマン映画、リーヴス監督が描いたその最新形態とは、バットマン原点回帰とも言える「探偵」「ノワール」要素の強調だ。

監督は、なぜ、そしていかにして、これまでにないバットマン像を組み上げたのか?THE RIVERは、マット・リーヴス監督と一対一の単独インタビューでその真意を尋ねた。『ザ・バットマン』10連続インタビューの第3弾。ロバート・パティンソンポール・ダノへのインタビューと合わせてお楽しみいただきたい。

『THE BATMAN-ザ・バットマン-』
© 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

『THE BATMAN-ザ・バットマン-』マット・リーヴス監督 単独インタビュー

──監督は、予告編やニュースを観たファンの反応はご覧になっているのでしょうか?

はい。(この仕事における)お楽しみの一つですよ。DCファンドームのイベントでは、YouTubeでのファンのリアクション動画を、家族と一緒に何時間も観ちゃいました。あのティザー映像以前にそういうリアクション動画を観たことがあったかどうかは覚えていないけれど、観てみたら止まらなくて。「映像を観ている人を観る」っていうのに初めてハマっちゃった(笑)。だから、最新の予告編映像が出た時ももちろん見ましたよ。すごく満たされました。みなさんバットマンが大好きですが、私も大好きなので、みんなの反応が見られて楽しいですよ。

──本作の撮影は、コロナ禍の最中に行われました。撮影の中断や延期に何度も見舞われましたが、実際はいかがだったのでしょうか。大変だったのではないかと思います。

いえ、私たちは恵まれていました。撮影を続けることができたわけですから……。大変な時期ですね。まさかこんなことになるとは……。実は、我々のクルーの1人が、その……、亡くなっているんですね。彼は方言コーチだったのですが、亡くなってしまったのです(※本作の方言コーチを務めたアンドリュー・ジャック氏は新型コロナウイルスによって2020年3月に亡くなった)。

──それは……。お悔やみ申し上げます。

本当に辛かったです。恐ろしくもありました。でも、誰もが恐れていて、それは承知しています。私たちの経験が、皆さんと違って特別だということはありません。

何が不思議だったかというと、撮影が3ヶ月止まってしまったことがあって、確か2ヶ月撮影してきた後だったのですが、本当にこの作品の撮影を終えられるのかが分からなくなった。一晩で世界が全く変わってしまったんです。ロックダウンというものが始まって、みんなは自宅に戻ったのですが、私は妻や息子がロンドンに移動してきていたので、もし一旦帰ってまた戻って撮影を仕上げるとなると、落ち着くのにまた苦労するから、ロンドンで待機していようということになったんです。それでロンドンはシャットダウンされてしまったのですが、まるでダニー・ボイルの映画『28日後…』(2002)みたいになっちゃって。通りを歩く人は誰もいなくて、すごくシュールでしたよ。まるで映画みたいな光景で。

そういうわけで、数ヶ月は停止状態だったんですが、何とかならないのかということで、医者に助言を求めながら安全性を保って続行することになったんです。こうして幸いなことに、安全な撮影ができたんです。すごく奇妙でしたよ。俳優以外は全員マスクをしていて、しょっちゅう検査をやって。あの時はまだワクチンがなかったので、すごく怖かったですね。

ただ、ある意味では、それでみんなの絆が深まりました。他にはないような経験を共にして、みんなで乗り越えましたからね。正直言いますと、集中できる仕事があったということが、パンデミックを乗り切るには良かったと思うんです。まるで我々に課せられたミッションのようでした。映画を愛していますからね。

──本作では、なぜブルース・ウェインがバットマンになったかというオリジン・ストーリーは描かれないと聞いていますが、意図的に避けたのでしょうか?

今回はオリジン・ストーリーはやらないぞと、最初から決めていたんです。なぜなら、素晴らしいオリジンはこれまで何度も作品になっているからです。どれも非常に素晴らしい。もはやバットマンのファンではない方々も、オリジンの内容は知っているでしょう。マーサの真珠のネックレスや、ブルースの両親が殺害されたことも、もう誰でも知っている。浸透しきっているんだから、今回は違うことをやりたいなと。

私は、もし自分がバットマンの映画をやるなら、素晴らしいバットマン映画はすでにたくさん存在するのだから、何か決定的なことをやりたいと思っていたんです。それで、これは決定的になるぞと思ったのは、「両親を失ったブルースがバットマンになる」という物語じゃなくて、「不完全なバットマンを描く」という物語。そんな彼の初期の日々を観るんです。まだ自分自身をコントロールできていないし、自分を突き動かしているものが何かさえ理解していない、自分の闇の部分とも折り合いがついていないような状態です。まるで自分の中に眠る野獣と向き合っているようなエゴを描く、ダークなコミックのように。彼が戦っている相手は、犯罪者たちだけではありません。自分自身とも戦っているのです。そういった物語なら、決定的で、他と違う作品になると思ったんです。

なので今作は、「バットマンのオリジンは既に過去の話だが、キャリアの初期である」ということです。そこで描かれる事件が、最終的に彼のオリジンに誘っていくんです。私は、「世界最高の探偵」としてのバットマンを描きたかったんです。これまでの映画は、彼が実は探偵であるということや、ノワールの雰囲気に寄せることがなかったですよね。事件現場で謎を解く、といったことがなかった。だから我々はその要素に寄せたんです。

その旅の中で、ゴッサムの腐敗の真相や、彼のオリジン、彼の家族、そして、「なぜ彼はバットマンになったのか」という謎につながっていくんです。なぜ彼は(バットマンに)変貌したのか?変貌しなければならなかったわけです。それこそが私のやりたかったことであり、これまでとの違いを作る方法でした。

つまり、私は意図的にオリジンをやりませんでした。なぜなら、オリジンを避ければ、それは決定的なものになるし、その中でオリジンに言及する、というのが新鮮だと思ったからです。

THE BATMAN-ザ・バットマン-
© 2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

──バットモービルのデザインもこれまでとは違いますね。今回のバットモービルはマッスルカーのようです。

そうです。今回のブルースなら、どんなバージョンのバットモービルを求めるだろうかと想像したんです。(『ダークナイト』の)ノーランのものも素晴らしかった。あれは戦車のようで、すごく理にかなっていましたね。

ただし今回のブルースは、活動初期で、もっと孤独なんです。まだルーシャス・フォックス(※バットマンのテクノロジー開発者。『ダークナイト』ではモーガン・フリーマンが演じたキャラクター)もいないし、手助けしてくれる人はいない。彼はギアヘッド(※車やバイクなどのメカに興味を持っている人)でもあって、自分のガレージでキットカーを組み立ててしまうような男なんです。そこで、彼ならマッスルカーのようなものを組み立てるだろうと考えました。

そもそも、バットモービルは何のために用意するのか?何の目的で作るのか?だって、普段から街中でバットモービルを乗り回すわけじゃないでしょう?だから、何か特定の目的があるはずなんです。彼は「脅威」として作っているんです。それは、バットスーツに関しても同じです。

なので、今作でマッスルカー的なバットモービルが影の中から出現するのは、バットマンが影の中から出現することと同じなのです。スティーヴン・キングの『クリスティーン』(1983)みたいにしたかった。犯罪者たちを威嚇するわけですよ。あそこに何者かがいる、闇の中から出現する、とね。彼の正体は不明であり、恐怖を生み出すんです。まるで幽霊のようにね。

この作品で私が行ったことは、その全てに「もし彼が現実に存在したら、どんな人物だろうか」といったフィルターを通しています。それをやってから、他作品との差別化や新鮮さを図っています。だからバットモービルも新しいし、バットスーツも新しい。全てが新しいんです。お馴染みの要素にも触れてはいますけれど、これまで見たことのないような形で、新しい光を当てられた姿を見つけてくれたら嬉しいです。

DC映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』は2022年3月11日(金)に全国公開。

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。