『ボヘミアン・ラプソディ』もっと楽しむエピソード集 ─ ラミ・マレックの役づくり、『ロケットマン』とのリンク構想、舞台裏事情など

一方、フレディ・マーキュリーらしい動きをラミに指導したポリー氏は、「フレディ・マーキュリーを偉大で、特別で、個性的たらしめるものを分解するのが私の仕事でした」と語っている。フレディのパフォーマンスには、彼が取り組んでいたボクシングなどの影響があり、ポリー氏は“フレディらしい動き”のひとつひとつをラミに伝えた。「全ての動きには心理的要因がある」と語るポリー氏にとって、ムーブメント・コーチとしての仕事の喜びは「分析し、再現するための実用的な方法を見つけ出すこと」だという。
ちなみにラミ自身は、記者会見時に「僕はフレディをコピーしようと思ったことはありません。フレディ・マーキュリーの進化を突き止めようとしたのです」と語っていた。「毎日絶えず取り組み、帰宅してからも練習を続けました。プロとして、フレディという人間への裏切りがないよう、称えたいという思いでした」。
フレディの付け歯、最初はもっと大きかった
ラミはフレディを演じるため、衣装やヘアメイクだけでなく、フレディの特徴のひとつを再現する「付け歯」を装着して演技に挑んだ。この付け歯を作ったクリス・ライオンズ氏は、はじめにフレディ本人のサイズを復元した付け歯を作ったのち、その出来上がりに「ラミ・マレックには大きすぎる」と気付き、サイズを縮小してラミ専用の付け歯を完成させたという。

この付け歯について、ラミは「最初はどうすべきか難しかったですね。ありとあらゆるサイズを試したんですけど、最初は全然安定しなくって」と語っている。しかし、慣れたあとは、この付け歯のおかげでフレディを演じるコツが掴めるようになったという。
「まずは姿勢を意識してエレガントに座ってみるところから始めました。”フレディってすごくエレガントだな!”と思いました。彼が唇や歯をずっと隠しているのって、分かるでしょう。このコツが全然掴めなくて。でも、付け歯を付けたら、すぐに出来るようになったんですよ。ちょっとしたことですけど、僕にはすごく有益でしたね。」
ラミはフレディを演じるため、実に1年間にもおよぶ役作りを行っていたという。クリスも「フレディは歯がコンプレックスで、ずっと唇で隠そうとしていました。ラミもフレディのように、歯を唇で隠す所作を一生懸命に練習していましたね」と振り返った。
ブライアン・メイお気に入りのシーン、カットの可能性あった
クイーンのギタリスト、ブライアン・メイはラミの演技を称えているが、ブライアンが特に気に入ったというシーンは、なんと『ボヘミアン・ラプソディ』本編からカットされる可能性があったという。それは「フレディが勇気を振り絞って、ソロアルバムを作りたいと話すところ」。必要不可欠なシーンとも思われるが、スタジオ側からの“上映時間を短くせよ”という要求があったのが要因だった。
「シーンを残してもらうよう、僕たちは戦いました。あのシーンのリアリズムには、本当に胸が張り裂ける思いがしたんですよ。あれは僕たちにとって辛い出来事だったんです、フレディが家族を見捨てるようなものでね。(ラミは)素晴らしい演技でした。ほとんど脚本に書かれていないんですが、すごくフレディらしいなと。彼は静かに話し、タバコをふかし、あまり言葉にしない。最後には言葉にするんですが、それもあらかじめきちんと準備しておいたもの。けれど、彼が不安を抱えているのはわかるんです。」

ブライアンは、「フレディはこの映画を好きになると思いますか?」という問いかけに「そう思います」と答えた。
「きっと、彼は“とうとう捕まっちゃったな”って思うはずですよ。フレディの偉大なところや間違いやすいところ、不安な部分までのすべてが描かれています。ありのままの彼が、持ち上げることなく描かれている。それでいて、彼の才能がきちんと理解されている。」
ちなみにブライアンだけでなく、フレディの実妹であるカシミラ・クックも、兄を徹底的に再現したラミを見て涙したという。ラミは、撮影現場でカシミラと対面した際、カシミラが笑ったあと、後から涙を流し、あとからラミ宛てに丁寧なメールを送っていたというエピソードを明かしているのだ。ラミは「とても感動しましたし、力をもらいました。フレディの近くにいた方に感謝していただけるなんて」と話している。