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『ワイルド・スピード』ハン役サン・カン初監督作『ドリフター』レビュー ─ リアルなレースと、孤独な男の深いドラマ

Drifter
Courtesy of TIFF.

『ワイルド・スピード』(通称『ワイスピ』)シリーズのハン・ルー役で知られるサン・カンが、監督・主演・共同脚本・プロデュースを務めた初長編監督作『Drifter(原題)』が、第51回トロント国際映画祭(以下、TIFF)のDiscovery部門でワールドプレミアを迎えた。

『ワイスピ』といえば、ド派手なカーアクションを思い浮かべる人も多いだろう。しかし、『Drifter』はそんな期待をいい意味で裏切る。もちろん後半には迫力満載のドリフト競技シーンが待っているが、本作の軸となるのは、車そのものではなく、孤独な男が人とのつながりを取り戻していく姿だ。そして何より、この映画から伝わってくるのが、サン・カン自身のカーコミュニティへの深い愛情である。

Drifter
Courtesy of TIFF.

主人公は、サン・カン演じるツリー。カリフォルニア州ロザモンドにあるウィロースプリングス・レースウェイで働き、親から受け継いだ負債を抱えながら、孤独な人生を送っている。そんな彼の唯一の楽しみが、愛車の古いトヨタ・カローラAE86を砂漠で走らせ、ドリフトすることだった。ある日、ツリーはプロのドリフト競技「Legends of Drift」に出場するチャンスを得る。しかし、競技に挑むためには、自分一人の力だけではどうにもならない。これまで人との関わりを避けてきた彼は、他者との関係を築いていかなければならなくなる。

Drifter
Courtesy of TIFF.

ツリーが競技に挑む愛車は、決して最新の高性能マシンではない。彼が乗るのは、1986年型トヨタ・カローラAE86。日本では「ハチロク」の愛称で知られる車で、劇中では「ローラ」という名前が付けられている。調べてみると、AE86はFR(後輪駆動)やマニュアルトランスミッションを備え、現在のドリフト文化にもつながる歴史を持つ車として知られているようだ。単なる旧車ではなく、ドリフトという文化を象徴する存在だからこそ、本作の主人公の愛車に選ばれたのだろう。ちなみにTIFFでは、実際にAE86がストリートに展示され、映画の世界を飛び出して、観客のほか、通行人もその車を間近で見ることができた。

Drifter
Courtesy of TIFF.

そして、サン・カンと車のつながりを語るうえで、やはり外せないのが『ワイルド・スピード』シリーズだ。第3作『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』で「ドリフトの達人」ハンを演じ、その後もシリーズを通して多くのファンを獲得してきた。

『Drifter』にも“スピード”や“ドリフト”は登場するが、観終わって強く残るのは、派手なカーアクションよりも、ひとりで生きてきた男が少しずつ誰かとつながっていく姿だった。ツリーは無口で、表情も乏しい。何を考えているのか、観客にもすぐには伝わらない。そのため、物語の序盤はどうしても重く、どんよりとした空気に引っ張られそうになる。だからこそ、ツリーがふと感情を見せる瞬間には、思っていた以上の重みがある。

Drifter
Courtesy of TIFF.

TIFF公式サイトによると、サン・カンは本作で、モータースポーツをできる限りリアルに描くことにも力を注いだという。実際、アダム・LZ、ラトリッジ・ウッド、ジェームズ・パンフリー、そして「フーニガン(Hoonigan)」の共同創設者であるブライアン・スコットといった、カー・カルチャーを代表する著名人が出演。そして、ツリーのドリフトを担当したのは、Formula DRIFTのワールドチャンピオン、吉原大二郎。本作は、物語映画の全編を通じてFormula DRIFT世界王者が実際のドリフトを大規模に担当する、初の試みになったという。

さらに、クライマックスのレースシーンには、約12,000人もの実際のカー・カルチャーのファンが参加。2025年8月にニュージャージー州のレースウェイ・パークで開催された「Legends of Drift」のイベントを映画撮影の舞台として使用し、プロのドライバーによるリアルなドリフトと、観客の熱気を作品に取り込んでいる。

エンドロール前には、サン・カンからカーコミュニティに向けたメッセージも流れる。映画本編だけでなく、こうした部分からも、サン・カンのカー・カルチャーへの深い愛情が伝わってくる。まさに、カーコミュニティに捧げるラブレターのような一本だ。

Drifter
Courtesy of TIFF.

TIFFでは一般上映のチケットがソールドアウトとなった『Drifter』。いつ劇場公開を迎えるのかは未定だが、日本でも公開されることを期待したい。

Writer

Ayaka SaitoAyaka Saito

カナダ・トロント在住の映画レポーター/コラムニスト。北米で感じ取れる「ポップカルチャーへの熱」をお届けします。好きなジャンル:ホラー、好きなヒーロー:DCブルービートル。

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