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【ネタバレなし】『TENET テネット』解説 ─ 鑑賞前に知っておきたいポイント、キャラクター&キャスト紹介

TENET テネット
Tenet c 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

クリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』が2020年9月18日(金)に日本公開を迎えた。『ダークナイト』3部作や『ダンケルク』(2017)などを手がけてきたノーランは、『インセプション』(2010)『インターステラー』(2014)など、難易度の高いSF作品を世に放ってきたことでも知られる。もっとも『TENET テネット』は、“ノーラン史上最も難しい”ともいわれる一作だ。

THE RIVERでは公開を記念して、本作を観る前に、あらかじめ押さえておきたいポイントを網羅した「解読ガイド」をご用意。もちろん楽しみを削がぬよう、ネタバレは一切なしでお届けする。観る前の予習に、あるいは観た後の振り返りに、劇場用パンフレットとともにご活用いただければ幸いである。

予告編

あらすじ/ストーリー

満席の観客で賑わうウクライナのオペラハウスで、テロ事件が勃発した。罪もない人々の大量虐殺を阻止するべく、特殊部隊が館内に突入する。部隊に参加していた名もなき男(ジョン・デイビッド・ワシントン)は、仲間を救うため身代わりとなって捕らえられてしまう。

昏睡状態から目覚めた男は、フェイと名乗る男から“あるミッション”を命じられる。それは、未来からやってきた敵と戦い、世界を救うというものだった。未来では、〈時間の逆行〉と呼ばれる装置が開発され、人や物が文字通り、未来から過去へと進められるようになっていた。ミッションのキーワードは「TENET(テネット)」。このキーワードを使って、男は第三次世界大戦を防がねばならない。「その言葉の使い方次第で、未来が決まる」──。突如として巨大な任務に巻き込まれた男は、無事に任務を遂行することが出来るのか。

主なキャラクター/登場人物(出演者/キャスト)

名もなき男(ジョン・デイビッド・ワシントン)

TENET テネット
© 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

抜群の身体能力と知力を兼ね備えるCIAエージェント。突如として第三次世界大戦を防ぐという任務を受け、〈時間の逆行〉を駆使して敵と戦わなければならなくなる。

演じるジョン・デイビッド・ワシントンは、名優デンゼル・ワシントンを父に、女優パウレッタ・ワシントンを母にもつサラブレッド。子役時代に『マルコムX』(1992)などに出演したのち、学生時代からアメリカンフットボール選手として活躍。プロのアスリートとしてのキャリアを築いたのち、2015年から俳優業に本格進出した。代表作はドウェイン・ジョンソン主演ドラマ「ballers / ボーラーズ」(2015-2019)や『ブラック・クランズマン』(2018)。コロナ禍のロックダウン中に撮影された、ゼンデイヤとの共演作『Malcolm & Marie(原題)』を控える(Netflixにて配信予定)。

ニール(ロバート・パティンソン)

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第三次世界大戦を止めるというミッションを受けた名もなき男の前に現れ、相棒として、ともに世界を飛び回ることになる人物。名もなき男と同じく、高い身体能力と知力を誇り、そのスキルによって名もなき男を導く。演じるロバート・パティンソンいわく「混沌を愛する男」。

『ハリー・ポッター』シリーズのセドリック・ディゴリー役、『トワイライト』シリーズのエドワード・カレン役で知られるロバートは、『トワイライト』の完結後、『奪還者』(2014)や『シークレット・オブ・モンスター』(2015)、『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』(2016)などに出演。近年は『グッド・タイム』(2017)や『The Lighthouse(原題)』(2019)などで高く評価される。最新作には本作のほか、トム・ホランド主演のNetflix映画『悪魔はいつもそこに』(2020)。DCコミックス原作映画『ザ・バットマン』(2021)では新たなバットマン役に抜擢されるなど、ハリウッドで今もっとも注目される演技者の一人だ。

キャット(エリザベス・デビッキ)

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ロシアの大富豪であるセイターの妻にして、幼い息子を愛する母親。絵画鑑定士であり、ミッションのために名もなき男の接触を受ける。セイターの束縛に苦しんでいるようだが、真なる狙いやいかに。

演じるエリザベス・デビッキは、幼少期からバレエを身につけ、大学時代から演劇を学んだ。レオナルド・ディカプリオ主演『華麗なるギャツビー』(2013)や『コードネームU.N.C.L.E.』(2015)などで頭角を顕し、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017)『クローバーフィールド:パラドックス』(2018)などに出演。『ロスト・マネー 偽りの報酬』(2018)やドラマ「ナイト・マネジャー」(2016)の演技が評価された。今後はNetflixドラマ「ザ・クラウン」を控えるほか、第二次世界大戦下を舞台とするドラマ「Code Name Hélène(原題)」で主演&製作総指揮を務める。

プリヤ(ディンプル・カパディア)

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〈時間の逆行〉に深く関連する、インドの武器商人の妻。その役目上、名もなき男とは何度も顔を合わせ、彼に示唆を与えていくことになる。

演じるディンプル・カパディアはインド映画界の名女優で、大ヒット作『ボビー』(1973)に14歳で出演。主にインド国内で多数の映画に出演している。

アイブス(アーロン・テイラー=ジョンソン)

アーロン・テイラー=ジョンソン
Photo by Gage Skidmore https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/9357007402/ Remixed by THE RIVER

名もなき男やニールとともにミッションに挑む、エージェントの一員。クリストファー・ノーラン監督いわく「重要な役どころ」。

演じるアーロン・テイラー=ジョンソンは、子役時代から活動を開始し、『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』(2009)のジョン・レノン役、『キック・アス』シリーズでブレイク。近年は『GODZILLA ゴジラ』(2014)やマーベル映画『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)、『ノクターナル・アニマルズ』(2016)などに出演する。『キングスマン』シリーズの最新作『キングスマン:ファースト・エージェント』の公開を2021年2月26日に控える。

マヒア(ヒメーシュ・パテル)

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名もなき男、ニールとともにミッションに参加する人物。得意分野は「飛行機」。

演じるヒメーシュ・パテルは、イギリスの人気ドラマ「EastEnders(原題)」に2007年から2016年まで出演。ダニー・ボイル監督がザ・ビートルズをモチーフに撮った『イエスタデイ』(2019)で主演に抜擢され、フェリシティ・ジョーンズ&エディ・レッドメイン主演『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』(2019)に出演した。

クロスビー(マイケル・ケイン)

マイケル・ケイン
Photo by Manfred Werner / Tsui https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Michael_Caine_-_Viennale_2012_e.jpg Remixed by THE RIVER

1933年生まれ、俳優として60年以上のキャリアを誇るイギリスの名優。非常に多くの作品に出演しており、『ハンナとその姉妹』(1986)や『サイダーハウス・ルール』(1999)ではアカデミー賞に輝いた。クリストファー・ノーラン監督作品には『バットマン ビギンズ』(2004)以来の全作に出演しており、「ノーランのお守り」を自称している(『ダンケルク』にはノークレジットで声の出演)。ケインの登場シーンは、『TENET テネット』のお楽しみのひとつ。どこでどんなふうに出てくるのか、その役回りとセリフも含めて堪能してほしい。

セイター(ケネス・ブラナー)

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© 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

ロシアの大富豪にして武器商人。そのルーツにも謎をはらむ、過去と未来とを繋ぐブローカーだ。ノーラン監督は極悪人としてセイターのキャラクターを作り上げ、演じたケネス・ブラナーも「人々をダークサイドに追いやるような」人物だと語っている

ケネスとノーラン監督は、前作『ダンケルク』に続いて早速の再タッグ。ケネスはキャリアの黎明期には劇団ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの一員として数多くの舞台に立ち、『炎のランナー』(1981)で映画デビュー。その後、自身の得意とするシェイクスピア作品を含む多数の映画に出演している。監督としても活躍し、代表作に『マイティ・ソー』(2011)『シンデレラ』(2015)『オリエント急行殺人事件』(2017)など。主演・監督を務める『ナイル殺人事件』の公開を2020年10月23日に控えている。

解読のポイント

1. 「TENET」とは

作品のタイトルである「TENET」とは、“教義”や“信条”を意味する言葉。名もなき男は、第三次世界大戦を止めるという使命を託された際、フェイ(マーティン・ドノヴァン)という男から、このキーワードを聞かされることになる。その真意は何なのか、そして名もなき男にとっての“信条”とは……。

あらかじめ押さえておきたいのは、「TENET」という言葉が含まれている、“SATOR式”と呼ばれるラテン語の回文だ。「SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS(農夫のアレポ氏は馬鋤きを曳いて仕事をする)」という回文は、正方形に並べると、前後だけでなく上下からも同様に読むことができる。「TENET」だけは上下左右どこからでも「TENET」と読めるのだ。ちなみに「TENET」だけでなく、「セイター」「アレポ」「オペラ」「ロータス」という言葉も記憶の片隅にとどめておくと……?

tenet
Photo by M Disdero https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Sator_Square_at_Opp%C3%A8de.jpg

2. 名もなき男=主人公

『TENET テネット』の主演俳優、ジョン・デイビッド・ワシントンは「名もなき男」という役柄を演じている。しかし米国で事前に公開されたあらすじでも「ジョンが演じるのは[中略]新たな主人公(Protagonist)」と記されており、実はこの役名こそがポイントなのである。そもそもノーランの狙いでは、主人公の役名は“主人公(Protagonist)”だ。もちろん、彼が“主人公”という役名であるところにも、それだけの理由はある。

ちなみに余談ながら、これまでノーランの作品で主人公になってきたのは白人男性ばかりだった。『TENET テネット』は、ノーラン史上初めて有色人種のキャラクターを主人公に据えた作品なのだ。

3. 時間の逆行

もはや言うまでもなく、カギを握るのは〈時間の逆行〉だ。これがなぜ発生し、なんのために行われるのかがストーリーのカギとなっている。これまで多くの作品で〈時間〉を扱ってきたノーランだが、“逆行”を扱うのは出世作『メメント』(2000)以来。もし時間が許すのであれば、予習がてら『メメント』を観ておくと、きっとノーランの狙いと進化ぶりをストレートに理解できることだろう。

『インターステラー』で理論物理学者のキップ・ソーンを製作総指揮に招いたノーランは、本作でも再びソーンの助けを得ており、科学的に正確な脚本を目指したという。〈時間の逆行〉のメカニズムは劇中でも語られるが、初見ならばスムーズに理解するのは至難の業かもしれない。その原理や本編との照合、映画ならではのユニークさは、劇場用パンフレットに掲載されている山崎詩郎氏の解説に詳しい。

TENET テネット
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4. 第三次世界大戦

名もなき男とニールは、得体の知れない「第三次世界大戦」を止めなければならない。予告編でも語られているように、“未来”で起こるという戦争は「核戦争よりも凄惨」なもの。水面下で何かが起こっていることは“冷戦”とも形容されているが、それら一連の出来事にはロシアの富豪・セイターの存在がある。ネタバレを避ける以上、多くを語ることはできないが、劇中に登場するさまざまなモチーフが、あくまでもフィクショナルに構築されていながら、世界の現代史とゆるやかに重なっている点も掘り下げがいのあるところだ。

5. スパイ映画

思えばクリストファー・ノーランという映画監督は、“ジャンル映画”というものに敬意を払いながら、それらを脱構築するような作品群を創ってきたフィルムメーカーである。長編デビュー作『フォロウィング』(1998)以来、たびたび繰り返されてきたフィルム・ノワールへのオマージュ。『ダークナイト』3部作で、スーパーヒーロー映画/コミック映画に大胆なまでのリアリティを持ち込んだことは、その後のコミック映画にも大きな影響を与えている。『インセプション』(2010)は『オーシャンズ』シリーズを彷彿とさせる、まさしく正統派の犯罪映画らしい筋立てだ。

ノーランは『TENET テネット』を「クラシックなスパイ映画」だといい、幼少期から親しんでいた“スパイもの”というジャンルを現代に蘇らせようとしている。複雑なコンセプトを取り入れているが、それゆえでもあろう、ストーリー自体はシンプルだ。『007 私を愛したスパイ』(1977)を愛してやまないという監督による、これは『007』『ミッション:インポッシブル』シリーズへの挑戦でもあるだろう。

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6. 考えるな、感じろ

公開前には「考えるな、感じろ」というフレーズが躍るスポット映像も話題を呼んだが、このブルース・リーばりの切り口は、そもそも劇中にノーラン自身が織り込んでいるものだ。〈時間の逆行〉について狼狽する名もなき男を前に、科学者のバーバラ(クレマンス・ポエジー)は「理解しようとしないで、感じて」と口にするのである。

脚本の難解さには俳優陣もそうとう苦戦したようで、出演者たちは何度も読み返し、ジョン・デイビッド・ワシントンは撮影現場でノーランに毎日質問していたことを明かしている。THE RIVERによるインタビューで、ニール役のロバート・パティンソンも「初めて観るときは、分析しようと思わず、湧き上がる思いに身を任せるべき」と語っているのだ。「必死に理解しようとしたり、あるいは逆らったりしなくても、どこか不思議な感覚を覚えるもの」だと。解読ガイドでそれを言ってはおしまい……という気がしないでもないが、意外にも、それこそが正しい理解への最速ルートになってくれるかもしれない。まずは理解できるところからコツコツと、である。

7.「The Plan」

『TENET テネット』には、人気ラッパーのトラヴィス・スコットが新曲「The Plan」を提供。ノーラン作品のために楽曲が書き下ろされるのは今回が初めてであり、ノーランは「トラヴィスの声が、何年もやってきたパズルの最後のピースとなった」と出来栄えを絶賛。リリックには作品のキーワードが無数に埋め込まれている。プロデュースは本作の音楽を担当した新鋭、ルードヴィッヒ・ヨーランソン。『ブラックパンサー』(2018)でアカデミー賞に輝き、チャイルディッシュ・ガンビーノ(ドナルド・グローバー)のプロデュースを長年務めてきた才能が、トラヴィスとの初タッグを果たした。

監督クリストファー・ノーラン

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© 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

1970年7月30日生まれ。幼いころから映画制作を開始し、『フォロウィング』(1998)で長編デビュー。『メメント』(2000)の凝った構造とストーリーテリングが世界中で話題を呼び、アカデミー賞脚本賞候補となる。『インソムニア』(2002)を経て、『バットマン ビギンズ』(2004)でDCコミックスの人気ヒーローをスクリーンに甦らせるや、映画ファン&コミックファンからの大きな支持を得た。

故ヒース・レジャーがジョーカー役を演じた『ダークナイト』(2008)は社会現象的な人気を獲得し、『インセプション』(2010)はノーラン流の知的なコンセプトと娯楽性が融合。『ダークナイト ライジング』(2012)や『インターステラー』(2014)、『ダンケルク』(2017)と作品ごとに新たなジャンルに挑み、そのつど革新的な映像体験を生み出している。

よく特徴として語られるのは、あくなき実写撮影へのこだわりと、『ダークナイト』で初めて劇映画に導入したIMAXカメラでの撮影だ。なるべくCGを使わずに本物で撮る姿勢は、『インセプション』で無重力空間をセット撮影で実現し、『インターステラー』でトウモロコシ畑を一から栽培するという取り組みに至った。本作『TENET テネット』では、本物のボーイング747機をセットに激突させて破壊している。

前述の通り、ノーランはフィルモグラフィにおいて〈時間〉というテーマに継続して取り組んでおり、『TENET テネット』はその集大成ともいうべき一作。同じテーマを作品を超えて反復し、そのつど深めていくスタイルは本作にも活かされている(詳しくは筆者による劇場用パンフレットでの解説を参照のこと…!)。

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映画『TENET テネット』は2020年9月18日(金)より全国公開中

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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