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『ボヘミアン・ラプソディ』もっと楽しむエピソード集 ─ ラミ・マレックの役づくり、『ロケットマン』とのリンク構想、舞台裏事情など

ボヘミアン・ラプソディ
© 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation, Regency Entertainment (USA), Inc. and TSG Entertainment | Finance LLC in the U.S. only. © 2018 Twentieth Century

伝説のロックバンド「クイーン」と、そのフロントマンであるフレディ・マーキュリーを描いた『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)は、日本でも当初の予想を上回る大ヒットを記録した。若き日のフレディの姿、クイーンの結成からブレイク、そんな中に滲み出すフレディの孤独、バンドの危機、そしてライブ・エイド。数々のエピソードが綴られる本作には、舞台裏にもさまざまなエピソードがある。

本記事では、主に制作秘話に焦点を当てながら、『ボヘミアン・ラプソディ』をさらに深く味わうための逸話をお届けしたい。

「クイーン」ブライアン・メイも予想外の大ヒット

まずは、公開後の大ヒットぶりから振り返っておくことにしよう。『ボヘミアン・ラプソディ』は2018年10月24日にイギリスで、11月2日にアメリカで公開され、興行収入は全世界累計で9億365万ドルを記録(米国興収:2億1,642万8,042ドル、海外興収:6億8,722万7,217ドル)。日本は世界的映画市場ではないが、日本国内興収が1億1,569万3,295ドルだから、そのヒットぶりがよくわかるというものだ。

音楽総指揮を担ったクイーンのギタリスト、ブライアン・メイも、この結果には驚いた。インタビューでは「ここまでの大ヒットになるなんて、誰も予想していませんでした。記録を更新するヒット作になるとは僕たちも思っていなかった」と語っているのである。作品の完成度に満足していたメイは、フレディ・マーキュリー役のラミ・マレックを「とても素晴らしい演技、フレディそのものだった」と絶賛。自分の若き日を演じたグウィリム・リーにも感心したことを認めていた。

ボヘミアン・ラプソディ
© 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation, Regency Entertainment (USA), Inc. and TSG Entertainment | Finance LLC in the U.S. only. © 2018 Twentieth Century

フレディ役ラミ・マレック、怒涛の肉体改造

フレディ役を演じ、その再現ぶりと繊細な演技を見事に両立させたラミ・マレックは、映画の試写が始まるや批評家からの絶賛を浴びた。結果的に、ラミは本作でアカデミー賞、ゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞など、数々の映画賞で主演男優賞を射止めたのである。

ラミはフレディを演じるため、フレディ本人の体格を再現することに挑んでいる。ラミの目標は、ただ身体を大きくすることではなく、クライマックスのライブ・エイドを自身が演じきれるだけの身体を作り上げること。「22分間のコンサートを5日間で何度もこなしても息切れしない身体にしたかった。それって非常に難しいことなんです。できるだけ多くの空気を吸い込みたくて、気がつくと仰向けの姿勢をとっている日々もありました」。

もっとも『ボヘミアン・ラプソディ』の撮影は、このライブ・エイドのシーンから始まった。出演者たちは伝説のコンサートを完全再現してから、時計の針を巻き戻すかのように、若い頃のメンバーたちが繰り広げたドラマを演じることになったのである。すなわち、ラミは全盛期のフレディの肉体を作り上げてから、特殊なダイエットによって、若き日のフレディの肉体を手に入れなければならなかった。

「最初の1週間で身体を大きくして、すぐに筋肉と体重を落として若いフレディの撮影に挑むんです。若いフレディは痩せていますからね。だから鍛える時期と痩せる時期をキッチリ把握しておかなければいけませんでしたよ。これは誰にもオススメできないですね。」

ボヘミアン・ラプソディ
© 2018 Twentieth Century Fox

ラミ・マレックを支えたピアノ&ムーブメントのコーチたち

むろん、ラミによるフレディ役の再現はラミ自身の力だけでなしえたものではない。ラミを支えたキーパーソンが、ピアノ・コーチのロブ・プロイス氏と、ムーブメント・コーチのポリー・ベネット氏だ。

長年のクイーン・ファンだというロブ氏は、ピアノの演奏だけでなく、“本当に演奏しているように見える”方法も伝授。この指導のおかげで、ラミは「ボヘミアン・ラプソディ」のピアノ演奏シーンで見せる、印象的な両手を交差させる弾き方をマスターした。もっとも、フレディがピアノ下に寝そべって逆さまに弾くシーンは「私が教えたものではない」とか。ロブ氏は「今となっては(フレディ役は)ラミ以外考えられない」と語っている。

一方、フレディ・マーキュリーらしい動きをラミに指導したポリー氏は、「フレディ・マーキュリーを偉大で、特別で、個性的たらしめるものを分解するのが私の仕事でした」と語っている。フレディのパフォーマンスには、彼が取り組んでいたボクシングなどの影響があり、ポリー氏は“フレディらしい動き”のひとつひとつをラミに伝えた。「全ての動きには心理的要因がある」と語るポリー氏にとって、ムーブメント・コーチとしての仕事の喜びは「分析し、再現するための実用的な方法を見つけ出すこと」だという。

ちなみにラミ自身は、記者会見時に「僕はフレディをコピーしようと思ったことはありません。フレディ・マーキュリーの進化を突き止めようとしたのです」と語っていた。「毎日絶えず取り組み、帰宅してからも練習を続けました。プロとして、フレディという人間への裏切りがないよう、称えたいという思いでした」。

フレディの付け歯、最初はもっと大きかった

ラミはフレディを演じるため、衣装やヘアメイクだけでなく、フレディの特徴のひとつを再現する「付け歯」を装着して演技に挑んだ。この付け歯を作ったクリス・ライオンズ氏は、はじめにフレディ本人のサイズを復元した付け歯を作ったのち、その出来上がりに「ラミ・マレックには大きすぎる」と気付き、サイズを縮小してラミ専用の付け歯を完成させたという。

ボヘミアン・ラプソディ
(C)︎2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

この付け歯について、ラミは「最初はどうすべきか難しかったですね。ありとあらゆるサイズを試したんですけど、最初は全然安定しなくって」と語っている。しかし、慣れたあとは、この付け歯のおかげでフレディを演じるコツが掴めるようになったという。

「まずは姿勢を意識してエレガントに座ってみるところから始めました。”フレディってすごくエレガントだな!”と思いました。彼が唇や歯をずっと隠しているのって、分かるでしょう。このコツが全然掴めなくて。でも、付け歯を付けたら、すぐに出来るようになったんですよ。ちょっとしたことですけど、僕にはすごく有益でしたね。」

ラミはフレディを演じるため、実に1年間にもおよぶ役作りを行っていたという。クリスも「フレディは歯がコンプレックスで、ずっと唇で隠そうとしていました。ラミもフレディのように、歯を唇で隠す所作を一生懸命に練習していましたね」と振り返った。

ブライアン・メイお気に入りのシーン、カットの可能性あった

クイーンのギタリスト、ブライアン・メイはラミの演技を称えているが、ブライアンが特に気に入ったというシーンは、なんと『ボヘミアン・ラプソディ』本編からカットされる可能性があったという。それは「フレディが勇気を振り絞って、ソロアルバムを作りたいと話すところ」。必要不可欠なシーンとも思われるが、スタジオ側からの“上映時間を短くせよ”という要求があったのが要因だった。

「シーンを残してもらうよう、僕たちは戦いました。あのシーンのリアリズムには、本当に胸が張り裂ける思いがしたんですよ。あれは僕たちにとって辛い出来事だったんです、フレディが家族を見捨てるようなものでね。(ラミは)素晴らしい演技でした。ほとんど脚本に書かれていないんですが、すごくフレディらしいなと。彼は静かに話し、タバコをふかし、あまり言葉にしない。最後には言葉にするんですが、それもあらかじめきちんと準備しておいたもの。けれど、彼が不安を抱えているのはわかるんです。」

ボヘミアン・ラプソディ
© 2018 Twentieth Century Fox

ブライアンは、「フレディはこの映画を好きになると思いますか?」という問いかけに「そう思います」と答えた。

「きっと、彼は“とうとう捕まっちゃったな”って思うはずですよ。フレディの偉大なところや間違いやすいところ、不安な部分までのすべてが描かれています。ありのままの彼が、持ち上げることなく描かれている。それでいて、彼の才能がきちんと理解されている。」

ちなみにブライアンだけでなく、フレディの実妹であるカシミラ・クックも、兄を徹底的に再現したラミを見て涙したという。ラミは、撮影現場でカシミラと対面した際、カシミラが笑ったあと、後から涙を流し、あとからラミ宛てに丁寧なメールを送っていたというエピソードを明かしているのだ。ラミは「とても感動しましたし、力をもらいました。フレディの近くにいた方に感謝していただけるなんて」と話している。

舞台裏の監督降板騒動

実は『ボヘミアン・ラプソディ』は、大きな製作トラブルに見舞われた作品だった。2017年12月、監督としてクレジットされているブライアン・シンガーが20世紀フォックスによって解雇されたのだ。理由はシンガーが撮影現場に現れなくなったからだとも、出演者やスタッフがシンガーの振る舞いに耐えきれなくなったからだとも、主演のラミ・マレックとシンガーが衝突を繰り返したからだともいわれている。

いずれにせよ、シンガーはプロジェクトを去り、後任者として『イーグル・ジャンプ』(2016)のデクスター・フレッチャーが就任した(ただしクレジットは「製作総指揮」)。プロデューサーのマシュー・ヴォーン、フレディ役ラミ・マレックからの要請を受け、フレッチャーは急遽仕事を引き受けた。当時、フレッチャーはエルトン・ジョンの伝記映画『ロケットマン』の撮影準備中。タイトなスケジュールの中、本撮影のラスト3分の1を手がけ、編集作業の一部に携わり、なんとか作品を完成に導いた。

報道によれば、フレッチャーが撮影したのは「Another One Bites the Dust」「We Will Rock You」のレコーディングシーンのほか、フレディが誕生日を家族と祝う場面。また、ジョン・ディーコン役のジョゼフ・マゼロは「(フレッチャーが)映画の冒頭近く、楽しいシーンをたくさん撮ってくれた」とも証言している。

ボヘミアン・ラプソディ
© 2018 Twentieth Century Fox

残念ながらフレッチャーは『ロケットマン』のために編集作業の途中で企画を離れたが、自身は「本当に大切だったのは、出来上がっているものをきちんと観て、その一部になることだった」と語っている。「何かを変えるとか、一から作り直すとかってことではなく、達成されたことを無視せず、そして傷つけないことが大事だったんです」。

ちなみに、ラミとシンガー監督の間に確執があったことは明らかで、映画公開後の2019年2月、ラミは「ブライアンとの経験は楽しいものではありませんでした」と語っている。「ブライアン・シンガーは解雇されたのです。誰も予想できなかったと思いますが、僕はそうなるべきだと思っていました」。

『ロケットマン』にラミ・マレック登場のアイデアあった

『ボヘミアン・ラプソディ』の最終監督を務めたデクスター・フレッチャーは、その後、自らが手がけたエルトン・ジョンの伝記映画『ロケットマン』にラミ・マレック演じるフレディ・マーキュリーを登場させる演出を検討していたことを認めている。

「ある時、こんなアイデアがありました。エルトンが母親とレストランにいる時、ジョン・リードとフレディが別のテーブルにいて、互いに手を振る。凄いことになっていたでしょうけど、実現はしませんでした。少しやり過ぎになっていたでしょう。シネマティック・ユニバースを作りたいわけじゃないですから!」

ロケットマン
『ロケットマン』©2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

もっとも、『ボヘミアン・ラプソディ』と『ロケットマン』には共通点がある。エルトンとフレディ、双方のマネージャーだったジョン・リードは両作に登場しているのだ。リードは1970年代からエルトンと公私にわたる付き合いを始め、1998年までマネージャーを担当。その途中、1975年〜1978年にはクイーンのマネージャーを務めていたのだ。ちなみに『ボヘミアン・ラプソディ』ではエイダン・ギレン、『ロケットマン』ではリチャード・マッデンがジョン・リードを演じている。

なおエルトン・ジョンは、フレディの逝去を受けて、「信じられないほど革新的な歌手、バンドのフロントマンでした。僕の大親友で、彼と出会えたことは恵みでした。とても面白くて、並外れていて、それにすごく優しかった」「ユーモアのセンス、並外れたセンスがありました。ライブ・エイドのステージはまさに圧巻でした」との声明を発表。1992年4月20日に開催されたフレディの追悼コンサートでは、ガンズ・アンド・ローゼズのアクセル・ローズと「ボヘミアン・ラプソディ」を、ブラック・サバスのトニー・アイオミと「ショウ・マスト・ゴー・オン」を、ともにクイーンの演奏によって歌いあげている。

不在のデヴィッド・ボウイ

クイーンとデヴィッド・ボウイは、1981年にリリースされたシングル「アンダー・プレッシャー」で夢の共演を果たし、全英チャートで1位を記録。もともとデヴィッドは「クール・キャット」のバック・ボーカルに参加する予定だったが、仕上がりに満足できずお蔵入りとなり、2組のジャム・セッションから「アンダー・プレッシャー」が生まれたという経緯がある。ちなみに、スキャットの多用はセッション中のアドリブに由来するもので、ブライアン・メイは「フレディとデヴィッドが楽曲の上で激しい戦いを繰り広げていた」と語っている。

こうした縁のあるデヴィッド・ボウイが『ボヘミアン・ラプソディ』に登場することは、陰ながらファンの間で期待されていたものだ。ただし完成版では、冒頭のライブ・エイドで、舞台裏の喧騒に一瞬だけ姿を見せるに留まった。プロデューサーのグラハム・キングは、本作にデヴィッドを登場させる構想がなかったことを強調している。

「デヴィッド・ボウイが登場する脚本があるという説が囁かれているみたいですが、そういったものは存在しません。ボウイのそっくりさんを登場させたくなかったんです。それから、ふたりが一緒にレコーディングをするシーンも入れるつもりはなかった。むしろ、どこにあの曲(「アンダー・プレッシャー」)を入れれば良いかを考えていました。最後まで格闘した結果、ミュンヘンでポール・プレンターをクビにするシーンに入れたのです。」

ちなみに、フレディ・マーキュリーとデヴィッド・ボウイの初対面は「アンダー・プレッシャー」時が初めてではなかった。クイーン結成前の1969年、23歳のフレディがロンドンのケンジントン・マーケットのブーツ店で働いていた際、当時既に有名人だったデヴィッド・ボウイが来店。フレディは接客を担当し、一組のブーツを試着させたのだという。

Reference: THE RIVER過去記事(1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12

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THE RIVER編集部THE RIVER

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