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【ネタバレ】『ブラックパンサー』ヴィラン&ラストシーン徹底解説 ─ キルモンガーの言葉に隠された意味、削除されたセリフ

ブラックパンサー
©Walt Disney Studios Motion Pictures 写真:ゼータイメージ

この記事には、映画『ブラックパンサー』のネタバレが含まれています。

エリック・キルモンガーという革命家

ワカンダ王国への強い憎しみを抱き、主人公ティ・チャラ/ブラックパンサーの前に立ちはだかるエリック・キルモンガーとは何者なのか。傭兵として戦場を渡り歩き、数えきれないほどの人間を葬ってきたがゆえ、その異名は「キルモンガー」と付けられている。アメリカ人としての本名はエリック・スティーブンス。しかし、その真のアイデンティティは別のところにある。

キルモンガーは決してワカンダの“よそ者”ではない。その正体は、ティ・チャラの父親ティ・チャカの弟であるウンジョブが、アメリカ人女性との間にもうけた子ども・ウンジャダカだ。しかしウンジョブは、スパイ活動に手を染める中、故郷を裏切った。白人社会で黒人が不当な扱いを受けている事実を知ったウンジョブは、過激派組織との関わりを持ち、ワカンダの“秘密の鉱石”であるヴィブラニウムを持ち出していたのである。その事実を祖国に悟られたウンジョブは、強制連行を拒み、殺害されてしまう。父の故郷に対する復讐、父の悲願である黒人解放の思いを継いで、ウンジャダカはテロリストになった。演じるマイケル・B・ジョーダンは、そんなキルモンガーを“革命家”と呼んでいる。

「ワカンダには新しいリーダーが必要だと考え、そのためなら手段を選ばない」。英Total Filmにて、マイケルはキルモンガーをそう説明している。ワカンダが秘めている科学技術、そしてヴィブラニウムの解放を狙って、キルモンガーはワカンダの征服を目論む。マイケルいわく、キルモンガーは「チェスの得意な男」だ。「彼は、完璧なタイミングがやってくるのを待っていたんです」

父を殺された怒り、その思いをなかったことにされた悲しみ、世界に差別と分断が蔓延するさなか、自国の安全だけを守り、外界に手を差し伸べないワカンダへの憎しみ。キルモンガーは、ワカンダに危機をもたらす武器商人ユリシーズ・クロウの死体を手土産に、いまだ知らなかった父親の故郷に足を踏み入れる。ティ・チャラとの決闘に勝利したキルモンガーは、新たな国王となった。その狙いはワカンダという国を変えること。苦しむ人々を救うため、キルモンガーは諸外国に兵器を輸出すると決めるのだ。

しかし、キルモンガーの思惑はあと一歩のところで食い止められる。一度は戦いに敗れたティ・チャラは生きており、キルモンガーとの決闘は再開されるのだ。格闘の末、ついにキルモンガーは倒れる。刃に身体を貫かれた彼は、ティ・チャラに連れられて、かつて父親に聞かされていた“ワカンダの美しい夕陽”を見つめるのだ。「治療すれば命は助かる」とティ・チャラは申し出るが、キルモンガーは断った。

「なぜ治療する、牢屋に入れるためか。海に葬ってくれ、かつて先祖が船から身を投げた海に。彼らは奴隷になるよりも、尊い死を選んだんだ。

この一言を、マーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長は「今まで読んだ中で最も優れたセリフのひとつ」だと語っている。「脚本の初稿からあったセリフです。今後、脚本を何度も改訂する中でも、このセリフには触るまいと決めました」。もっともクーグラー監督のほうは、このセリフの削除を求められるのではないかと危惧していたという。しかし、ファイギ社長の答えは「むしろ、この言葉から映画を作っていきましょう」というものだった。

キルモンガーの最後のセリフは、かつてアメリカにあった黒人奴隷制度を直接的に示しているものだ。1600年代前半から1865年まで、あまりにも多くのアフリカ人が、アメリカやカリブ海諸島、南米へ強制的に連行された。彼らを移動させるための“奴隷船”は極めて劣悪な環境だったといい、船上で息絶えた者は海に投げ捨てられ、中には生きて奴隷になることより、死を選ぶ者も決して少なくなかったといわれている。

幻となった「もうひとつのセリフ」

残虐なテロリストであるキルモンガーだが、その最期を見るころには、きっと観客はキルモンガーではなく、エリック・スティーブンスという人物の奥深さに魅力を感じてしまっているはずだ。クーグラー監督は、キルモンガーには「現実に通じる感性がある」と述べ、「マイケルが演じてくれたおかげで、観客にも親しみやすい人物になった」と語っている。

そのマイケルは、役づくりにあたって、『ブラックパンサー』の物語が始まるまでのキルモンガーがどんな人生を送ってきたのかという“日記”を書いていたという。「どんな役柄でも、一番最初の記憶からの日記を書いて背景を理解するようにしています。キルモンガーは特にダークな役柄なので、すごく悲しい日記になりました。母親がいませんから、里親や養護施設など、社会のシステムに出たり入ったりしていて」。

マイケル・B・ジョーダン
Photo by Gage Skidmore https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/35852195080/

もっともクーグラー監督は、英Empireにて、キルモンガーが死なないという結末はありえなかったと強調している。「エリックの結末は脚本の初稿からずっと同じ。(ティ・チャラと)2人が共存することはありえません。ティ・チャラには悲劇ですが、エリックは手遅れだったんです」。ただしティ・チャラは、確かにキルモンガーの思いを継承する。ワカンダは諸外国に門戸を開き、世界との間に橋を架け、そして外部の人々を兄弟・姉妹のように考えはじめるのだ。

編集担当のマイケル・P・ショーバー氏は、キルモンガーが夕陽を見つめるシーンの脚本には、削除された“幻のセリフ”が存在したことを明かしている。キルモンガーの死からエンドクレジットまでの展開は、撮影の終了後、再撮影などを経て作り上げられたもの。当初の脚本では、キルモンガーはワカンダの夕陽を見つめ、ティ・チャラに「美しい。この景色を見られない人々のため、お前はどうするんだ?」と問いかけていたという。

このセリフをマイケルは撮影現場にて実際に演じており、その出来栄えについて、ショーバー氏は「素晴らしかった」と述べている。ところが、監督とショーバー氏は、それでもそのセリフをカットせねばならなかった。

「これでは、ティ・チャラが疑問の答えを自力で得られなくなってしまいます。彼が必要とする答えが、彼のなすべきことが、悪役によってそのまま語られてしまう。それから(マイケルの)演技が実に素晴らしかったのも問題でした。エリックに死んでほしくないと思うと、観るのがつらくなってしまいます。この役柄にはふさわしくないことでした。」

そこでクーグラー監督はキルモンガーのセリフを削除し、新たなシーンを付け加えることにした。本編のラストシーンで、ティ・チャラは妹シュリとともに、幼き日のキルモンガーと父ウンジョブが暮らしていたオークランドを訪れる。ワカンダの先端技術による戦闘機を隠さず着陸させると、ティ・チャラはウンジョブ親子が住んでいたアパートの建物を買い取り、福祉施設を作ると宣言するのだ。

ショーバー氏は「この場面には、キルモンガーに語らせていた精神性が込められています。もしも人々が美しい風景を見られたら、自分自身の可能性に気づけたら、きっと物事は変わる、ということです」。そればかりではない。ティ・チャラは王として、キルモンガーにはできなかった方法で、世界に働きかけるのだ。

「映画のラストで、とある子どもがティ・チャラに“あなたは誰?”と尋ねます。その“自分は何者なのか”ということこそが、この映画のテーマであり、アイデンティティなのです。ティ・チャラが質問に答える必要はありません。なぜなら彼は、その問いかけに答えたばかりですから。」

Source: The Hollywood Reporter, ScreenRant, Fandango, Empire, Cinema Blend, Total Film 2018 February

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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