【レビュー】『ラビング 愛という名前のふたり』人権を巡る裁判映画ではなく、一組の男女の強い愛を描いた作品として
例えばあなたが今、付き合っている人と結婚する事が許されない法律の下で生きているとします。しかし、あなたと彼/彼女は心底愛し合っていて、結婚する事を決める。人目を気にして慎ましい生活を送っていたはずのあなたは、その法を破ってしまったがために逮捕されてしまうのです。
そんなあり得ない話……と笑ってしまうかもしれませんね。しかし、これは歴史上本当に起きた出来事なのです。実在したある夫婦に起きた、その一部始終を映画化した作品が『ラビング 愛という名前のふたり』です。
[youtube https://www.youtube.com/watch?v=BSsw0vi1xvM]
【注意】
この記事には、映画『ラビング 愛という名前のふたり』に関するネタバレが含まれています。
突然の逮捕、罪状は「結婚」
舞台は1950年代後半のバージニア。白人と黒人の間に境界が残っていた当時、アメリカのいくつかの州では異人種間の結婚がまだ許されていませんでした。バージニア州もそのうちのひとつであったのです。
白人と黒人は、一緒に遊ぶことができても、結婚をする事は許されない。しかし白人のリチャードと、黒人のミルドレッドは、カップルとしてお互いに愛し合っていました。ある夜、ミルドレッドが子供を授かった事をリチャードに打ち明けるところから物話は始まります。

このカップルの周りでは、人種関係なく多くの友人がいつも楽しげにしていました。子供を身籠った事をきっかけの結婚も、彼らには祝福されるものと信じていたのです。ところが、二人はその考えが甘かった事を思い知らされました。恐らく誰かが警察に告げ口をしたのでしょう、夜中に家宅侵入してきた警察官に二人は逮捕され、黒人のミルドレッドは白人のリチャードより長く留置場に入れられてしまいます。
無事に釈放されるも、起訴されてしまった二人は、離婚、もしくは「直ちに(異人種間の結婚が禁止されている)キャロライン郡とバージニア州を立ち去り、25年間、前記の群及び州に一緒に又は同時に戻らない」という条件を呑むという選択を迫られます。お互いの生活や家族、友人などのすべてがバージニアにあった彼らにとって、その場所を25年間も離れる事は酷なこと。それでも離婚する意思がなかった二人は、仕方なくワシントンD.C.で暮らすことになります。
しかしミルドレッドが、当時アメリカ合衆国の司法長官であったロバート・F・ケネディ(JFKの実弟)に宛てて書いた一通の手紙が、彼らの、そして異人種間カップルの生活を変える事となったのです。
豊かなキャラクターと俳優陣
この映画の魅力は、なんといってもラビング夫妻そのものでしょう。
リチャードは口数こそ少ないですが、一人の女を愛し守り抜こうとする意志が強く、信頼する仲間も大事にするタイプ。日本でいえば、昭和期に多かった“背中で語るような男性”なのです。そしてミルドレッドも、亭主関白の夫をもつ妻のように、夫の背中を静かに追いかける女性でした。こうした夫婦像は、我々日本人にあまり馴染みのない「異人種間結婚の禁止」というテーマに共感させるポイントになっているのかもしれません。

もっとも日本において、異人種・異国籍間の結婚は、1873年から今日に至るまで承認されつづけてきました。しかし勿論、国際結婚を良しと考えない時代もあったようです。現に筆者の父親はベルギー人で、22年ほど前に来日しましたが、当時は電車で席に座ると、周りの人が立って彼を避けた事もあったといいます。
いつの時代、どの国にもある、この根深い問題に対して、生涯をかけて慎ましく静かに闘った一組のカップルの姿は、だからこそ多くの人々に感動と勇気、希望を与えるのではないでしょうか。
アカデミー主演女優賞にノミネートされたヒロイン
今作のヒロイン、ミルドレッドを演じたのは、大きな美しい瞳が印象的な女優ルース・ネッガ。マーベル・シネマティック・ユニバース作品である海外ドラマ『エージェント・オブ・シールド』でレイナ役を演じた事でも知られています。