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『スノー・ロワイヤル』ヒット記念、キレる一般人映画10選 ─ 「フツーの人」こそ怖いのだ

スノー・ロワイヤル
© 2019 STUDIOCANAL SAS ALL RIGHTS RESERVED.

映画『スノー・ロワイヤル』は、『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』(2014)のリメイクであり、リーアム・ニーソン主演のアクション作品だ。これまでニーソンは元CIAエージェントや殺し屋、軍人など超人的な能力を持つタフガイを演じることが多かった。しかし、『スノー・ロワイヤル』は真面目な除雪業者の役。ギャングに息子を殺されたことで、除雪車や土地勘を武器にして復讐を遂げていくのだ。

スノー・ロワイヤル
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この記事では、『スノー・ロワイヤル』のように「キレた一般人」をテーマにした映画10本を選出した。

『激怒』(1936)

巨匠フリッツ・ラングは集団心理の恐ろしさをたびたび映画にしてきた。『激怒』は彼の作品群において、トップクラスに恐ろしい一本だ。誠実で正直者のジョウは、誘拐犯と同じ車に乗っていたことから、無実の罪で捕えられてしまう。怒りに燃える村人たちは刑務所を襲撃し火を放つ。なんとか脱出し無実も証明されたものの、度重なる理不尽にジョウはブチギレた!22人の村人たちはリンチの罪で裁判にかけられたが、ジョウは姿を現さない。ジョウが死んだことにすれば、村人たちは死刑を免れないからだ。さて、あなたがジョウなら彼らを許せるだろうか?

『静かなる男』(1952)

元ボクサーのショーンはアイルランドの美しい村、イニスフリーでメアリーと結婚する。しかし、頑固者のメアリーの兄、レッド・ウィルは妹に持参金を渡さなかった。アメリカ人のショーンにはどうでもいいことだが、アイルランドの伝統では持参金のない結婚は屈辱を意味する。ショーンが気に入らないレッド・ウィルは何度も挑発してくる。それでも、つらい過去のあるショーンは人を殴ることができなくなっていた。そんなショーンもメアリーにハッパをかけられ、ついに決闘が始まる。

『時計じかけのオレンジ』(1971)

スタイリッシュな暴力描写ゆえに、無法者の主人公・アレックスに憧れてしまった映画ファンも多いだろう。しかし、本作で鍵を握るキャラクターはアレックスに暴力を振るわれ、妻を犯された作家のフランクだ。善良なフランクの人生は、アレックスたちによって歪められてしまった。そして、彼と再会したとき、フランクは容赦なく復讐を行う。フランクには原作者、アンソニー・バージェスが自身を投影させたとの説もある。

『わらの犬』(1971)

静かな生活を求めて田舎に越してきた学者のデイヴィッドと妻。しかし、洗練されたインテリの2人は、不良たちのターゲットにされてしまう。度重なる嫌がらせの数々を黙って耐えるデイヴィッドに、妻は愛想をつかしていく。そう、デイヴィッドは「わらでできた犬」のように臆病で無抵抗な男だ。それでも、ある事件をきっかけに彼の怒りは頂点に達する。そして、激しい暴力に手を染めるのだった。サム・ペキンパー監督の代表作。

『マジェスティック』(1974)

農場主のマジェスティックは、メキシコ移民を労働者として大量に雇っていた。しかし、差別主義者のヤクザたちから嫌がらせを受けるようになる。そのうえ、ギャングまで敵に回したマジェスティックは八方ふさがり。しかし、せっかく収穫したスイカを台無しにされ、友人を傷つけられたときに彼の堪忍袋の緒は切れた。マジェスティックは単身、敵のアジトへと乗り込んでいく。まるで高倉健主演の任侠映画のような、渋い味わいの傑作だ。

『フォーリング・ダウン』(1993)

物質主義社会で、仕事に人生をすり減らされてきた男の大爆発を描いた問題作。仕事人間のウィリアムは真夏日の渋滞をきっかけに、常識のレールを踏み外してしまった。態度の悪い店員や、好き勝手し放題の不良たちをウィリアムは成敗していく。やがて、ウィリアムの暴走は警察やマスコミからも注目される騒ぎに。「真面目」や「勤勉」を無条件に美徳とする世の中では、第二、第三のウィリアムがいつ出てきてもおかしくない。

『トゥルー・グリット』(2010)

チャールズ・ポーティスの傑作小説、2度目の映画化。ぶっちゃけ、1作目『勇気ある追跡』(1969)より完成度は高い。西部時代、荒くれ者のチェイニーを恐れて人々はされるがままになっていた。行動したのはわずか14歳の少女、マティ。父親をチェイニーに殺された彼女は、飲んだくれ保安官のコグバーンを雇ってチェイニーを追う。大人がなくしてしまったまっとうな「良識」や「正義」を遂行しようとする少女の強さに胸を打たれる。

『スーパー!』(2010)

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガン監督によるブラック・コメディ。気弱なフランクを見かねて、美人妻のサラはギャングの元に走ってしまう。失意のフランクはヒーロー番組に感化され、「クリムゾンボルト」を名乗り、街の悪を勝手に成敗し始めた。中年太りのオッサンが、ピッチピチのヒーロースーツに身を包み、トンカチを振るう姿は明らかに不審者。ヒーローの正義感とは本質的には狂気と紙一重なのだという、ガン監督の批評性が光る。

『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』(2014)

石油会社の社長、アベルは自社のトラックが強奪される事件に悩んでいた。アベルは誠実な経営がモットーであり、闇のコネクションを利用して勢力を拡大させていく同業者とは距離を置いていた。しかし、営業妨害はより暴力的となり、従業員も危害を加えられる。ついに資金調達もできなくなったアベルは、自身の信条を捨てるかどうかの瀬戸際に立たされる。

『魂のゆくえ』(2017)

イーサン・ホーク演じる、牧師のトラーは熱心な信者・メアリーの頼みで、彼女の夫の話を聞きにいく。彼は環境保護活動にのめりこんでおり、過激な思想を持つようになっていた。だが、トラーは彼の言葉に感銘を受け、心から否定できない。やがて、トラーは自分の教会が環境汚染を行っている企業と癒着している事実を知る。信仰心が汚されたとき、トラーは危険な計画を練るようになっていた。誰もが世の中で、不義理や穢れと「上手くやりながら」過ごしている。しかし、それができない真面目な人々はどうすればいいのだろう?


改めてこれらの作品を眺めてみると、キレた善人ほど手に負えない存在はないと思えてくる。しかし彼らの暴走を見て、観客の胸が不思議とスッキリするのも事実だ。誰もが怒りや理不尽を抱えて生きている以上、「ブチギレ映画」には自分自身を投影しやすいのかもしれない。日常でプッツンしてしまう前に、映画で上手にガス抜きしてみてはどうだろう?

映画『スノー・ロワイヤル』公式サイト:https://snowroyale.jp/

Writer

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石塚 就一就一 石塚

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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