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『スター・ウォーズ』ミディ=クロリアンのジョーク論文、複数のインチキ科学ジャーナルに掲載されてしまう

『スター・ウォーズ』に登場する「ミディ=クロリアン」を扱ったジョークの論文が、複数の学術論文サイトに掲載されてしまうという珍事が発生した。

研究の世界には、「オープン・アクセス・ジャーナル問題」というものが存在する。科学論文誌というのは購読料が高く、高額な費用を支払って冊子を購入するか、限定のオンライン・サイトにアクセスして閲覧する必要があった。一方オープン・アクセス・ジャーナルは購読料の必要がなく、すべての論文をオンラインで無料で読むことができる。これは、論文著者が掲載料を支払うことによって成り立っている。しかし、論文著者から掲載料を搾取することを目当てとした悪徳な企業によるオープン・アクセス・ジャーナルが増加していた。

この不条理にライトセーバーを突き刺したのが、Discover Magazine(1980年より続く有名科学誌である)に寄稿するNeuroskeptic氏。彼は、明らかにデタラメな科学論文でも、インチキなオープン・アクセス・ジャーナルに掲載されてしまうのだろうかという疑問を確かめたかった。そこで、『スター・ウォーズ』に登場する架空の共生微生物ミディ=クロリアンに関する論文を執筆した。執筆とは言っても、ミディ=クロリアンにスペルのよく似た「ミトコンドリア」のWikipediaページをベースにし、「ミトコンドリア」の部分を「ミディクロリアン」に一括置換しただけのようだ。一見それっぽい論文に仕上げた同氏は、Dr.ルーカス・マクジョージDr.アネット・キン名義で、9つのオープン・アクセス・ジャーナルに提出した。言うまでもなく、ジョージ・ルーカスとアナキン・スカイウォーカーのパロディである。芸が細かい。

驚くべきことに、4つのジャーナルが“罠にハマった”。しかも、うち1誌は同氏に360ドルの掲載料を請求したという。ほか3誌も、このデタラメな論文を受諾し、掲載料を求めた。もちろん、同氏はいずれにも支払っていない。

この滑稽な事態がDiscover Magazineのオンライン記事で報告されると、“嫌な予感”にようやく気付いた4つのジャーナルはすぐに掲載を取りやめた。Neuroskeptic氏は現在、提出した論文を誰でも読めるようオンラインで公開している。

一時的とは言え、4つのジャーナルが掲載してしまった”ミディ=クロリアン”論文の内容は酷いものだった。「スター・ウォーズを知っている人が読めば、5分か2分でリジェクトするような内容」だったとNeuroskeptic氏は言う。抜粋して紹介されている以下を読むだけでも、明らかにデタラメな内容だとわかるはずだ。何故4誌はこの論文を受諾してしまったのか?

  • 細胞エネルギーを供給するだけでなく、ミディクロリアはフォースの感応性などの機能を…
  • アデノシン三リン酸の生産が、カイロ・レン回路とも呼ばれるクエン酸回路によって…
  • ミディ=クロリアンは全細胞に存在する微生物で、ミディ=クロリアン無くては生命は成り立たないし、フォースも知り得ない。ミディクロリアルの欠乏は、自閉症などの脳障害をもたらす。
  • “ミディクロリア DNA(mtDNRey)”と”ReyTP”(編注:Reyは『フォースの覚醒』のレイ)

これだけでも同論文がジョークであることがよくわかるが、Neuroskepticはさらに大胆に、『スター・ウォーズ エピソード3 / シスの復讐』でパルパティーンがアナキンに「ダース・プレイガスの悲劇」 を語ったシーンの台詞をそのまま論文内に盛り込んだ。突然始まるダース・プレイガスの描写部分は、日本語に直すとこのような具合だ。

ミディクロリアンによって媒介される酸化性ストレスは、タイプ2の糖尿病患者に心筋症を引き起こす。より多くの脂肪酸が心臓に届けられ、心筋細胞に達すると、細胞中の脂肪酸の酸化が増加する。君は賢人ダース・プレイガスの悲劇を聞いたことがあるか?私はない。ジェダイは語らぬ、シスの伝説である。ダース・プレイガスはシスの暗黒卿だった。偉大な力と知性を持つ彼はミディ=クロリアンにフォースを用いて影響を与え、生命を創造した。このプロセスはミディクロリアル電子が…

Neuroskeptic氏が提出したオープン・アクセス・ジャーナルの中には、このデタラメにちゃんと気付いたところもあった。うち1誌は、「この論文の著者は、以下の引用の付与を怠っている:ルーカス(1997)、パルパティーン(1980)、カルリジアン(1983)…」と、ユーモアをもってリジェクトしたそうだ。

この騒動を経て、Neuroskeptic氏はいくつかのオープン・アクセス・ジャーナルには検閲が機能していない事態に改めて警鐘を鳴らした。オープン・アクセス・ジャーナルの中には紙面版を出版しているところもあるが、オンラインで論文を掲載したいなら、ブログや自分のWebサイトを活用して無料で行うこともできると主張している。

なお、この度同氏がデタラメ論文を提出した9つのジャーナルは、普段から研究者らにスパム・メールを送りつけ、論文提出と掲載を促す悪徳なものとして知られていたという。

Source:http://blogs.discovermagazine.com/neuroskeptic/2017/07/22/predatory-journals-star-wars-sting/
https://ja.scribd.com/document/354932509/Mitochondria-Structure-Function-and-Clinical-Relevance

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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