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【ネタバレ考察】『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』ラストシーンの地に選ばれた◯◯の意味

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー
© 2022 MARVEL.

Black Panther: Wakanda Forever. © 2022 MARVEL.

この記事には、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のネタバレが含まれています。

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』ラスト、なぜシュリは海岸で儀式を行なったのか?

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のラストで、シュリはワカンダ対タロカンの激闘を、「首領ネイモアを降伏させる」ことで終結させた。シュリは母ラモンダを奪われた憎しみからネイモアへの復讐に駆られたが、「自分が何者かを示しなさい」という冥界の母の言葉を受け、そしておそらくは兄ティ・チャラを思い出して、とどめの一撃を思いとどまる。

ワカンダの危機がひと段落した後、シュリは国内の戴冠式を欠席していた。向かった先はナキアが暮らすハイチである。ワカンダでは、葬儀で着用した礼装を燃やすことで喪明けとする風習があるのだ。

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー
© 2022 MARVEL.

シュリがこの儀式の地にワカンダを選ばなかったことには、さまざまな解釈の余地がある。伝統を好まないシュリの性格なのかもしれないし、兄との思い出深い故郷の地を離れることが、彼女の精神にとって必要なことだったのかもしれない。あるいは、母も失って身寄りのなくなったシュリは、ナキアという義姉の側でこの儀式を迎えたかったという思いもあっただろう。シュリは劇中で勇敢に戦ったが、ひとたびブラックパンサーのスーツを脱げば、そしてワカンダの地を離れれば、心細い1人の少女に見える。

礼装を燃やす儀式は、火災の危険がなく、そして静かに思い巡らせることができる環境であればどこでも行えるものだろう。海岸で行なったことには、母ラモンダがワカンダの水辺でこの儀式を示してみせたことの余韻も大きいはずだ。しかしここでは、ライアン・クーグラー監督の考えが添えられたものと考えることにしたい。他でもなく、チャドウィック・ボーズマンの喪失に生じた心境である。

クーグラー監督は親友でもあったチャドウィックを失い、一度は『ワカンダ・フォーエバー』を辞退し、さらには映画監督を引退したいと考えるまでに心を痛めている。深い悲しみの中で、クーグラーはその感情を「水」や「波」としてとらえるようになった。2022年9月掲載の米Entertianment Weeklyのインタビュー記事で、監督はボーズマンの逝去後の心境についてこう話していたのだ。

「悲しみや激しい感情には、波があるように思うんです。波に連れ去られ、自分のコントロールを失ってしまうこともあります。コントロールできていると思っていても、実はできていない。そのことを水が常に思い出させてくれるんです。」

シュリは、礼装が燃える音、風の音、そして波の音を聞きながら兄を思い出し、溢れる涙をそのまま頬に伝わせた。ハイチの波はシュリの前で静かに満ち引きする。クーグラーが言うように、そしておそらくクーグラー自身が体験したように、今後ある時点でまた激しい波がシュリを襲うことがあるのかもしれない。

クーグラーは本作のプレミアで、「チャドウィックの死を乗り越え、今夜のプレミアを迎えることができた今のお気持ちは?」と尋ねられた際、「友を失った喪失感を克服するという意味では、『乗り越える』という言葉は使わない」と回答している。喪失の悲しみとは波であり、常にそこにあるからだろう。それは乗り越えるものではない。

ただし、少なくとも今、波は穏やかで優しい。『ワカンダ・フォーエバー』はラストシーンの儀式の地を海岸とすることで、そのことを伝えていたのではないか。

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は公開中。

Source:Entertianment Weekly

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。