【解説】ジェームズ・ガン、DC新リーダーに就任 ─ その経緯とマーベルでの今後について

DC映画の新リーダーとして、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(2021)のジェームズ・ガン、DC映画のプロデューサーを務めてきたピーター・サフランが共に就任したことがわかった。2名体制で新時代のDCを率いることになる。米The Hollywood Reporterが報じた。
ガンとサフランの両名は、この度DCフィルムズに代わって新設される「DCスタジオ」共同会長兼CEOとして、今後の映画、テレビドラマ、アニメ作品を管轄する。米Deadlineによると、2022年11月1日付で就任する。また米Varietyは、2人の給与とインセンティブについて「600万〜800万ドル」ほどになるだろうと推測を伝える。
ワーナー・ブラザース ディスカバリーは過去数ヶ月にわたって、DCユニバースのリーダーを探していた。これまで数名の候補者が浮上したが、交渉決裂などがあった。DCフィルムズ前社長のウォルター・ハマダは、新体制に迎合できず自ら退職している。ガンとサフランへの打診は、候補者とされたダン・リンとの交渉が揺れていた時期から行われていたという。
サフランは、ワーナー・ブラザース ディスカバリーCEOのデヴィッド・ザスラフに人材アドバイスを与えるうち、サフラン自身が有力な候補者になっていったとDeadlineは詳細を加えている。これによると、サフランは「ジェームズ・ガンのようなクリエイティブな人と一緒でなければやりたくない」と主張したという。
The Hollywood Reporterが「ここ数週間、ガンとサフランはワーナー・ブラザースの敷地内で頻繁に目撃されていた」と伝えるように、ガンが舵を取る今後のDC映画の可能性はこの頃活発に報じられていた。また、サフランが米ワーナー・ブラザースと3年間の新契約を結んだという動きもあった。
DCはかねており、マーベル・スタジオにおけるケヴィン・ファイギのような戦略と創造の両面を担えるリーダーを探しているとされた。ガンはマーベル・スタジオ『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズなどでケヴィン・ファイギの極意を学んでおり、DCとしては一種理想的なノウハウを持つ。
一方で、DCは直ちにマーベル風の統合的なシリーズ展開を打ち出すわけではないようだ。ガン&サフランは、トッド・フィリップス監督による『ジョーカー』続編へは関与せず、またマット・リーヴス監督の『THE BATMAN-ザ・バットマン-』関連作にも、ひとまずは携わらないものとされている。
現在、DCはプロデューサーやフィルムメイカーが作品ごとに主導権を握る「ピクサー・モデル」を目指しているとされ、必ずしもマーベル・スタジオ流の再現にこだわらない。
DC/ワーナーは、2018年にガンがマーベル・スタジオから一時解雇されていたことで『ザ・スーサイド・スクワッド』の監督に引き抜いた経緯がある。同作は2016年のデヴィッド・エアー版をリメイクするような内容で、キャラクターたちの新たな魅力を引き出して大ヒット。好評のためスピンオフ作品「ピースメイカー」まで誕生するほどとなった。
ガンの持ち味であるエッジの効いたユーモアやコメディのセンスは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で強化され、『ザ・スーサイド・スクワッド』にも活かされた。マーベルとDCの両地でスキルアップした後に、DCのリーダーに登り詰める展開となった。
ガンとサフランは共同声明の中で、「子どもの頃から愛してきたDCキャラクターたちの管理者になれることを光栄に思います」「史上最も巨大で、最も美しく、最も壮大な物語を語りながら、世界中の劇場体験を活性化できることが楽しみです」と述べた。また、ワーナー・フィルムズ幹部のマイケル・デ・ルカとパメラ・アブディは、両名の就任に「これ以上ないほど興奮しています」「このユニバースに関して、私たちは非常によく似たセンスと情熱を共有しており、これ以上の星はないでしょう」と喜びの声を寄せている。
この就任はガンが将来的にマーベル作品を手がける可能性がなくなったことも意味している。ガンはかねてより『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3(原題)』が同作チームの最後作になることを示唆。撮影はすでに終えられているが、これをもって事実上のマーベル映画卒業となるだろう。同作公開の頃にはすでにDCスタジオを指揮しているので、監督としてプロモーションに参加できるかはわからない。
ガンは『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)でも自身のキャラクターらの登場場面を監修した。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のメンバーが今後も登場を続けるかは不明だが、『アベンジャーズ/カーン・ダイナスティ(原題)』『アベンジャーズ/シークレット・ウォーズ(原題)』といった後のクロスオーバー作品に携わる可能性も極めて低いと考えられる。
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Source:The Hollywood Reporter,Deadline,Variety