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【考察】『マトリックス』第1作をこう観ると面白い ─ 20年後の同時代性とヒーロー映画としての特異性

『マトリックス』
マトリックス トリロジー <4K ULTRA HD & デジタル・リマスター ブルーレイ>(9枚組)| 価格:21,780円(税込) |発売日:2021年11月17日(水) |© 1999, 2003 Village Roadshow Films (BVI) Limited. © 1999, 2003 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

マトリックス』は本当に22年前の作品なのか。今はまだ1999年で、劇場の座椅子に腰掛けた瞬間から夢を見続けていたのではないか?そう思えてしまうほど、2021年の劇場で観た『マトリックス』第1作は、色褪せるどころか変わらぬ脳内刺激を与えてくれるのだった──。

と、当時の観客の体験談風に『マトリックス』の革新性を語りたいところだが、第1作が公開された1999年に筆者は4歳。当時の興奮を映画館で味わうことができなかった世代である。『マトリックス』を最初に観たのは、確か小学校高学年だったろうか。しかし、その前から『マトリックス』の影響力は田舎の小学生の“お遊び”にまで波及しており、バレットタイムで地面と平行スレスレのネオを(できもしないのに)再現しまくっていた思い出が今も脳裏に焼き付いている。

2021年12月17日(金)、その『マトリックス』が新作『マトリックス レザレクションズ』として、現代日本に再び熱狂をもたらす。これを記念して、本日12月10日(金)より16日(木)までの1週間限定で、『マトリックス』第1作が日本全国の劇場で復活することをご存知だろうか?その上、1999年の観客が味わうことのできなかったIMAX上映で。

これに先がけ、筆者は11月24日に開催された第1作の特別上映会に潜入。上映会の前には「日本マトリックス化」と銘打たれた特別イベントも開催され、その場には『マトリックス』をリアルタイムで観たことがない“ポスト・マトリックス”世代も多く参加していた。本記事では、『マトリックス』第1作を“現代”で観る方へ、作品を楽しむための2つの視点を伝えたい。

① 20年後に訪れた同時代性

『マトリックス』
マトリックス トリロジー <4K ULTRA HD & デジタル・リマスター ブルーレイ>(9枚組)| 価格:21,780円(税込) |発売日:2021年11月17日(水) |© 1999, 2003 Village Roadshow Films (BVI) Limited. © 1999, 2003 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

『マトリックス』を観たことない方のためにも強調しておくと、本作を“1990年代のクラシック映画”として扱うには早すぎる。むしろ、高度なテクノロジー社会とその因果応報によって訪れた終末世界&コンピュータの人類支配といった物語は、まさに現代社会の少し先の姿を映し出しているように感じられてならない。現代で観る『マトリックス』では、当時の観客にはファンタジーとして映っていたであろう描写や設定も、リアリティを増しているのだ。

そもそも『マトリックス』は、“サイバーパンク”という文学ジャンルを確立したウィリアム・ギブスンによる小説『ニューロマンサー』(ハヤカワ文庫SF)の映画化企画として動き出した。冴えない日常を繰り返す主人公に謎の人物が人生の選択を迫るという物語の構図は『ニューロマンサー』に倣ったもので、現実世界の“ザイオン”や仮想空間の“マトリックス”も、設定は違えど同書に存在する呼称だ。こうした『マトリックス』の世界は、インターネットもAIも実地レベルでは普及していなかった公開当時の社会にとって“まだ見ぬ遠い未来”であった。

しかし、今ではどうだろうか。追いついたとは到底言えないものの、実世界は確実に『マトリックス』へと近づきつつある。『マトリックス』で登場する画期的なテクノロジーの最たる例が、モーフィアスらザイオンの抵抗軍が活用する仮想空間のシミュレーションプログラム。劇中では、ネブカデネザル号に備え付けられたマシンを通して、精神のみを仮想空間に転送し、そこでの体験を記憶として体に刷り込ませる技術が使用されていたようだが、これは実世界で言うところのVR(バーチャル・リアリティ)に置き換わるだろう。ただし、VRには劇中のような刷り込み機能はないから、いくら10時間ぶっ通しで鍛えようとも、「アイノゥ、カンフゥー」とネオのようにマスターできるようになるわけではない。

仮想空間という概念に親しみが持たれるようになった現代だからこそ、『マトリックス』はまだ見ぬ世界への想像をいっそう掻き立ててくれる。ネオとモーフィアスが道場で繰り広げるカンフー勝負、高層ビル間の大ジャンプ、自分以外の人間全員が制止している異様な空間。劇中に登場するシミュレーションプログラムの全てを経験したいと思うかは別としても、実世界における疑似体験技術はまだまだ進化の余地がある。事実、神経工学の分野では『マトリックス』の世界が実現してしまうような研究が進められていて、2017年にはヒトの脳に11本のワイヤーを直接差し込んで行われた記憶保持実験が話題となった。

Writer

SAWADA
SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。ご連絡はsawada@riverch.jpまで。

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