デビー・レイノルズを偲んで、『雨に唄えば』をもう一度観よう

2016年12月28日、デビー・レイノルズが亡くなった

娘であるキャリー・フィッシャーの死後すぐに亡くなったので、彼女を“キャリー・フィッシャーの母”と形容するニュースが多かったように感じたが、もともとデビー・レイノルズ自身が超ビッグネーム。そしてデビー・レイノルズといえば、なんといっても『雨に唄えば』(1952年)だろう。

デビー・レイノルズの死を悼み、あらためて『雨に唄えば』を振り返りたい。

http://www.iaft.net/reprising-singin-in-the-rain/

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ミュージカル映画の金字塔『雨に唄えば』

『雨に唄えば』は、ミュージカル映画の金字塔だ。1952年、フレッド・アステアと並ぶMGMの大スタ―、ジーン・ケリー主演で公開された作品で、サイレントからトーキーに変わりつつある時代のハリウッドを舞台に、大スターと無名女優の恋を中心に描いている。この作品は、『サウンド・オブ・ミュージック』や『ウェスト・サイド・ストーリー』などのような舞台の映画化ではなく、最初から映画作品として作られている。劇中の音楽も、そのほとんどが既に存在していたヒット曲だ。

このとき、MGMの大スターであり天才ダンサーであったジーン・ケリーと、ベテランのコメディ俳優ドナルド・オコナー(キャリアはなんと1歳から!)に肩を並べるかたちでヒロインに抜擢されたのが、まだデビュー間もなかったデビー・レイノルズだった。

『雨に唄えば』といえば、ジーン・ケリーが雨の中で歌い踊るシーンが有名だが、他にも映画史に輝く名ミュージカルシーンがたくさんある。そのどれもが、今観ても驚愕するほどの素晴らしさだ。例えば、ドナルド・オコナーが披露する”Make ‘em Laugh”のアクロバティックなダンスシーン。「壁を駆け上がって宙返りをする」という振りが有名で、『Glee』などで幾度となくパロディ化された名シーンだが、何度観ても人間業とは思えない。

デビー・レイノルズ、ダンスは当時未経験だった

『雨に唄えば』で、デビー・レイノルズは、芝居はもちろん歌もダンスもこなしている……とはいえ、彼女はジーン・ケリー、ドナルド・オコナーのふたりとは全く事情が違っていた。デビーの死の翌日、テレグラフ誌は『雨に唄えば』の撮影を振り返った記事を発表している。

『雨に唄えば』の代表的なミュージカルシーンに、”Good Morning”というナンバーがある。デビーがジーンとドナルドの真ん中に挟まれて、3人で部屋から部屋へと歌い踊りながら移動していく楽しいシーンだ。軽やかにタップを踏みながら、非常に細かい段取りをいとも簡単にこなしていく3人の様子は魔法のよう。超人的なスキルを持つ2人と渡り合うデビー・レイノルズの動きは、まったく遜色なく見事なものだ。

しかし記事によると、『雨に唄えば』撮影当時の彼女にはダンス経験がなく、たった3か月の訓練だけで撮影に臨んでいたという。デビーは「私は、自分には不可能だということすら分からなかった。だから、やった」とコメントしているが、たった3か月しかトレーニングしていない初心者に要求するには、あまりに難易度が高すぎるのは、”Good Morning”の映像を観れば一目瞭然だろう。しかも、隣にいるのは世界一のダンサーで大スター。尋常ではないプレッシャーが彼女を襲ったことは想像に難くない。しかも、彼女の出演に反対していたジーンからの風当たりは相当厳しかったという。それでも、彼女はやり遂げたのだ(ちなみにデビーは「人生で一番辛かったのは『雨に唄えば』と出産だった」と後に語っている)。

フレッド・アステアの言葉

『雨に唄えば』の出演以降、デビーは順調にキャリアを重ね、長きに渡って人気女優としての地位を保ち続けた。彼女は間違いなく、ハリウッドにおけるレジェンドのひとりである。テレグラフ誌は、他にも『雨に唄えば』撮影時の印象的なエピソードを紹介している。

朝10時から夜11時まで続いた”Good Morning”の撮影が終わったとき、酷使した足から血が流れ、デビーは全く動けなくなってしまったという。「もうできない」と思った彼女を救ったのは、MGMが誇るもうひとりの大スター、フレッド・アステアだった。稽古ピアノの下に隠れて泣いている彼女を見つけたフレッド・アステアはこう言った。

「なにも死ぬわけじゃない。ダンスを習得するというのはそういうことだ。汗が流れないならば、それは正しくやれていないということなんだ」

そして、アステアの稽古を間近で見たデビーは、まるで軽々とやってのけているようなアステアのダンスの陰に、凄まじい努力があるということを知る。尋常ではない過酷な状況と、綺羅星のような才能たちとの交流を経て、まだ19歳だったデビーは大スターの道を歩み始めたのだ。

ありがとう、デビー・レイノルズ

『雨に唄えば』でデビーが演じたヒロイン・キャシーは、悪声のスター女優の吹替をやらされてしまう無名の女優だ。しかし最後に、彼女は自身の尊厳を取り戻す。幾多の困難を乗り越え、スクリーンの中で燦然と輝くデビー・レイノルズの姿を、是非ともその目に焼き付けていただきたい。

デビー・レイノルズ、そしてキャリー・フィッシャー、永遠に安らかに。素晴らしい映画を、そして最高の演技を残してくれて、ありがとう。

source: http://www.telegraph.co.uk/films/2016/12/29/bleeding-feet-gene-kellys-tongue-singin-rain-nearly-brokedebbie/
Eyecatch Image: https://top100project.com/podcasts/singin-in-the-rain-1952/
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About the author

ホラー以外はなんでも観る分析好きです。元イベントプロデューサー(ミュージカル・美術展など)。

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