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『007』ボンドガール役レア・セドゥ「私は政治的に正しくない」 ─ ボンドも「性的対象化されている」

レア・セドゥ
© Zuma/Avalon.red 写真:ゼータ イメージ

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、おなじみジェームズ・ボンドに大きな変化をもたらす一作となりそうだ。ダニエル・クレイグ版ボンドの最終作だから…というだけではない。ボンドと同じく、“00”すなわち殺しのライセンスを持つ女性エージェントが登場するのだ。シリーズの前作『007 スペクター』(2015)以降、世界の価値観は大きく変化した。銃を撃ち、車を駆り、女性を抱く、勇敢で強い白人男性というキャラクターは「時代に合わない」ともいわれる。“次世代のボンドは女性になるのでは”との仮説も激論を呼んできた。

そんな中、『スペクター』に続いてマドレーヌ・スワンを演じる女優レア・セドゥは、独自の持論を展開する。英Harper’s BAZAARに登場したセドゥは、従来のボンド像に時代にそぐわない部分があることを認め、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』では「変化させる必要がありました」と言う。「私たちはボンドのセクシャリティを満たすためにいるわけではない」のだと。しかし、セドゥの言葉はそれだけには終わっていない。

「つい忘れてしまうのは、(ボンドガールだけでなく)ボンドもまた性的対象化されているということです。彼は完全に性的対象物ですよ。数少ない──もしかすると唯一の──性的対象として扱われている男性キャラクターです。女性もボンドを見るのは好きだと思いますよ。彼の身体を見るのが好きなんじゃないかって。そう思いません? 水着姿のセクシーな男性を見るの、私は好きですよ。」

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
Credit: Nicola Dove / © 2019 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

セドゥがこうした発言に及んだ背景には、どんな発想があるのだろうか。このインタビューで、セドゥはパブリックイメージとは異なる発言を繰り返している。セドゥは自分自身について「政治的に正しくない」とさえ言っているが、かつて彼女はハーヴェイ・ワインスタインら業界人からの性的暴行やセクシャルハラスメントの被害を告発し、MeToo運動の最前線にいた人物だ。しかし今では、当時の記事に付けられた「“自分を守らなくてはいけなかった”:ハーヴェイ・ワインスタインが私にまたがった夜」というタイトルを悔やんでもいるという。もはや、MeToo運動さえ完全には肯定しない立場だ。

「私は自分を被害者にしたかったわけじゃない。私はそんなに素朴じゃないということです。(MeToo運動などには)偽善がたくさんあります。だって、みなさん分かってるでしょう? いまや、“私は被害者だ”と言うことでヒーローになっている人たちがいる。でも私にとって、ヒーローとは許すもの。私たちには許すことが必要なのです。」

取材した記者は、現在の状況を鑑みつつ、セドゥの考え方は「ほとんどラディカルなもの」であると記している。セドゥ自身も、自らの考え方が多数派のものではないと捉えているようだ。

「私には好きになれないシステムがあります。それは、どこかで誰もがなじまなければいけないようなもの。だけど私は、人々が望むような私にはなりたくないし、分類されたくもない。“政治的に正しい”とか、倫理的だとか、すごく嫌なんです。まるで裁判みたい。今や世界はすごく上品になってきているけれど、私にはそれがとても怖いんです。どんな失敗も許されないように思えて。」

もちろん、セドゥはMeToo運動などに代表される動きを──以前は自らその正面に立ったためでもあるだろう──しっかりと自分なりに理解している。

「女性が言いたいことを言えるのは素晴らしいことだし、多くの国では女性がとてもひどい状況に置かれているのも事実。過去の世代が懸命に戦ってきたことも理解しています。だけど私は、自分が男性に劣っているなんて一度も考えたことがないし、自分が女性だからできないことがあるとも思ったことがない。自由な国に暮らせて私は幸運だし、厳しい状況の国々があるのも分かっているけれど、あけすけに乱暴なことは少なくしていきたいんです。私たちは許せるようにならないと。フェミニストになるのは良いけれど、同時にマスキュリスト(男権主義者)にもなるべき。逆もまたしかりで、男性はフェミニストになるべきです。お互いをサポートしなければいけません。」

さて、こうした考え方のセドゥが、“性的対象化されている”とたびたび指摘されるボンドガールを再び演じたらどうなるのだろう。『007』シリーズで複数の作品に登場するボンドガールがそもそも極めて珍しいのだが、そのせいもあろうか、セドゥはマドレーヌ・スワンについて「ステレオタイプな役どころではありません」と断言している。「お決まりのキャラクターではなく、リアルな女性、興味深い女性です。それこそが必要だと思いました」。刷新されたジェームズ・ボンド&ボンドガール像のすべては、もうあと半年ほど待って、ぜひ映画館で。

映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は2020年11月20日(金)全国ロードショー。

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Source: Harper’s BAZAAR

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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