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『アベンジャーズ』ルッソ兄弟の出世作「コミ・カレ!!」日常系から演出実験まで、野心的シットコムの底力 ─ おうち時間に観たいシリーズ作品を1日1本紹介

コミ・カレ!!
©NBC /Photofest 写真:ゼータイメージ

新型コロナウイルスの感染拡大防止のための「緊急事態宣言」も、どうやら長引くことになりそうだ。いつもなら話題の大作映画がやってくるゴールデン・ウィークも、今年はずっとおうちで過ごすことになりそう。

そんな時だからこそ、たっぷり時間を使って「シリーズもの」に手を出してみてはいかがだろう。海外ドラマやリアリティ番組、ドキュメンタリー・シリーズなど、THE RIVER編集部メンバーいちおしのタイトルを8日連続で1日1作ご紹介。話題作から、ちょっぴりマイナーなものまで、イチオシ作をぜひお楽しみいただきたい。

3日目は稲垣貴俊より、「コミ・カレ!!」をご紹介。

「コミ・カレ!!」

2020年春、ようやく「コミ・カレ!!」(2009-2015)を取り上げることを、海外ファンの方々には大変申し訳なく思いながら、今あえて本作をご紹介することには理由がある。日本国内でも知る人ぞ知る人気シチュエーション・コメディ(シットコム)である本作が、4月1日よりNetflixにて全シーズン配信されているのだ(本記事現在)。もとより気軽に見られるのが大きな魅力である、この機会にチェックしてほしい。

物語の舞台は、架空のコミカレ=コミュニティ・カレッジの「グリーンデール」。コミュニティ・カレッジとは公立の2年制大学だが、エリート教育ではなく、誰でも学べる門戸の広さがポイント。各地の住民が働きながら通うことも多く、「コミ・カレ!!」の登場人物も人種・年齢層ともに幅広い。メインキャラクターの「勉強会メンバー」は、学歴詐称がバレた元弁護士ジェフ、元活動家の女性ブリッタ、映画オタクのパレスチナ系アメリカ人アベッド、離婚したての主婦シャーリー、優等生だが元依存症患者のアニー、アメフトの元スター選手トロイ、息をするように人を差別する元CEOのピアース。中国系のスペイン語教師チャンにも要注意だ。

まずは騙されたと思って、シーズン1の第1話「祝ご入学 ようこそ負け犬カレッジへ」をどうぞ。その約20分は、あらすじや設定のどんな説明にも勝るものだ。続く第2話以降は、“コミカレに勉強会メンバーたちが集まる”というルールに基づく説明不要の群像劇。日常系コメディからシュール&スラップスティック&ナンセンス、演出のエッジが立ちまくった実験回など、各エピソードはとんでもない振れ幅だ。それでいて、個性たっぷりなキャラクターの描き込み、約20~30分で複数のストーリーを絡ませつつ豊かなドラマに昇華する技巧、そして人々の関係性が少しずつ動く構造には舌を巻く。「THIS IS US」(2016-)よろしく人生の深みに触れ、“人間とは、社会とは”という問いを時折投げかけるところも油断できない。

全6シーズン・全110話の大ボリュームだが、各話は見やすい長さで、基本は学生たちの日常(非日常)を描くコメディなのでサラリと見られるのもいい。もっとも、そのユーモアと温かみ、ギリギリの毒気にはたちまち虜になってしまうはず。「あと1話だけ見よう…」という感覚でいると、どこかのタイミングで「これ無限に見られるのでは?」と気付かされることだろう。

ショーランナーは、のちにアニメ「リック・アンド・モーティ」(2013-)も大人気となるダン・ハーモン。製作総指揮&監督には『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)などのマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品で名を上げたアンソニー&ジョー・ルッソが参加しており、群像劇の演出はこの頃から冴えている。そのほか、エピソード監督に『ワイルド・スピード』シリーズのジャスティン・リンや『ベイウォッチ』(2017)のセス・ゴードン、脚本にはMCU版『スパイダーマン』などのクリス・マッケナ&エリック・ソマーズも携わった。

出演者として鮮やかなアンサンブルを見せたのは、『テッド』(2012)のジョエル・マクヘイル、「LOVE」(2016-2018)のギリアン・ジェイコブス、「GLOW: ゴージャス・レディ・オブ・レスリング」(2017-)のアリソン・ブリー、そして『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018)「アトランタ」(2016-)のドナルド・グローバー、『ハングオーバー』シリーズのケン・チョンら。突如現れる豪華ゲスト、いまやスターとなった顔ぶれが脇役として登場するところは、今観るからこそのお楽しみだ。

ちなみに「コミ・カレ!!」は、それぞれのキャリアを飛躍させるきっかけにもなった。ドナルド・グローバーは本作の音楽を手がけたルドウィグ・ゴランソンに出会い、自身の音楽活動チャイルディッシュ・ガンビーノのプロデュースを依頼(のちにゴランソンは『ブラックパンサー』(2018)でオスカーに輝いた)。また、ルッソ兄弟がMCUに起用されたのはシーズン2の第23話・第24話がきっかけだ。MCUファンの方はそこから見るのもアリだが、やはり最初から見るとキャラクターへの愛着が膨らみ楽しさはひとしお。その方法論が『アベンジャーズ/エンドゲーム』にも活きたことを考えれば、本作は現代のストーリーテリングを考える上でも重要と言わざるをえないのである。

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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