ブラッド・ピット『アド・アストラ』監督、「あれは私の編集版ではない」と明かす ─ 「あの映画は私から取り上げられた」

ブラッド・ピット主演のSF映画『アド・アストラ』(2019)について、監督のジェームズ・グレイが、劇場公開版は自身の意図した編集版ではなかったと振り返っている。
『アド・アストラ』は、宇宙飛行士ロイ・マクブライドが、消息を絶った父の行方と、太陽系を脅かす謎の現象の真相を追って宇宙の果てへ向かう物語。広大な宇宙を舞台にしながら、作品の焦点はアクションや冒険よりも、ロイの内面、父との関係、感情を抑え込んできた男の孤独に置かれていた。派手なSF大作というより、静かで内省的な心理ドラマとして受け止められた作品である。
米Varietyによると、グレイは第79回カンヌ国際映画祭で新作『Paper Tiger(原題)』を紹介する中で、『アド・アストラ』の製作を回想。『Paper Tiger』ではすべてを完全にコントロールできたと語ったうえで、「『アド・アストラ』ではそうではありませんでした。あの映画は私から取り上げられました。あれは私の編集版ではありません」と述べた。
グレイは、その背景として、スタジオとの協議や意見の衝突、さらに当時の20世紀スタジオがディズニーに買収されたことにも触れている。『アド・アストラ』の製作費は約8,000万ドル規模。一方、『Paper Tiger』は約1,500万ドル規模の作品だという。グレイは、大きな予算が動く作品では、作品の最終的な形をめぐって監督の手を離れる部分が出てくることを示唆している。
もっとも、グレイは『アド・アストラ』そのものを完全に否定しているわけではない。現在の公開版にも気に入っている部分はあるという。ただし、もし自身の編集版を実現できるなら、それは「かなり違う映画」になるとも説明。
興味深いのは、そのディレクターズカットが劇場公開版より長くなるのではなく、約12分短くなるという点だ。グレイは「私は、ディレクターズカットを短くする唯一の監督です」と冗談めかして語っている。
『アド・アストラ』は公開当時、批評家からはおおむね高く評価された。ブラッド・ピットの抑制された演技、ホイテ・ヴァン・ホイテマによる映像、宇宙SFの枠組みを使った父子ドラマとしての語り口などは評価を集めた。一方で、観客の反応は必ずしも一枚岩ではなかった。大作SFを期待して観た観客にとっては、作品の静けさや内省的なテンポが戸惑いにつながった面もあっただろう。実際、世界興収は約1億3,500万ドルで、製作規模を考えると大きな成功とは言いがたい結果にとどまっている。
今回のグレイの発言を踏まえると、『アド・アストラ』が抱えていた違和感の一部は、作家性の強い映画を大作スタジオ映画として成立させようとした際の難しさにあったのかもしれない。『アド・アストラ』の中心にあるのは極めて個人的な感情の物語だった。大作としての見せ場を求めるスタジオ側の判断と、より削ぎ落とされた形を望んだ監督の意図が、編集段階でぶつかった可能性はある。
もちろん、グレイ自身の編集版がどのような作品だったのかは、現時点ではわからない。約12分短かったということから考えるなら、説明的な要素や、物語をわかりやすく補強する部分が削られていた可能性はある。公開版の『アド・アストラ』には、ロイのモノローグや心理状態を言葉で示す場面が多く含まれていた。もしグレイの版がより短く、より削ぎ落とされたものだったなら、ロイの孤独や父への感情は、さらに余白の多い形で描かれていたのかもしれない。
ジェームズ・グレイは、『リトル・オデッサ』(1994)で長編監督デビューして以来、『裏切り者』(2000)、『アンダーカヴァー』(2007)、『トゥー・ラバーズ』(2008)、『エヴァの告白』(2013)、『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』(2016)、『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』(2022)などを手がけてきた監督だ。ジャンルは犯罪映画、恋愛劇、冒険映画、自伝的ドラマと幅広いが、その多くに共通しているのは、家族との関係、親から子へ受け継がれるもの、孤独や後悔を抱えた人物を、派手な説明に頼らず見つめる語り口である。そう考えると、『アド・アストラ』もまた、宇宙SFでありながら、グレイの関心がはっきり刻まれた作品だった。もし彼が最後まで編集をコントロールしていたなら、物語はさらに削ぎ落とされ、ロイの内面や父との距離感を、より静かに、より余白を残して描く映画になっていた可能性がある。
グレイは、いつか自身の編集版を出せることを望んでいるとも語っている。ただし、それは自分だけで決められることではなく、権利を持つ側の判断に委ねられるという。『アド・アストラ』は公開から時間を経て、静かなSF映画として再評価される余地もある作品だ。もしグレイ版が実現するなら、劇場公開版では見えきらなかった彼の意図を、あらためて確認する機会になるだろう。
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Source:Variety



























