ワーナーがお蔵入りにした『コヨーテ vs. ACME』レビュー ─ ファン要望受け劇場公開、実写とアニメのドタバタコメディ

(カナダ・トロントから現地レポート)完成しても公開されない——。そんなハリウッドの厳しい現実を経験しながら、ようやく観客のもとへたどり着いた作品がある。それが、ルーニー・テューンズのワイリー・E・コヨーテを主人公にした『Coyote vs. Acme(原題)』だ。本作は一度、劇場公開も配信もされないまま“お蔵入り”になることが決まった。しかし、試写での好評や出演者、クリエイター、ファンらの公開を求める声を受け、紆余曲折を経て、2026年8月28日、ついに北米で劇場公開を迎えた。
本作の舞台は、人間とアニメキャラクターが普通に共存する世界。ロード・ランナーを捕まえようとしては、ロケット付きローラースケートやダイナマイトなどのACME製品に裏切られ、毎回ひどい目に遭ってきたワイリー・E・コヨーテ。いつもなら「またコヨーテが失敗した」と、ひと笑いして終わるところだが、本作ではついにコヨーテが我慢の限界に達する。コヨーテは、「ACME製品は欠陥だらけで危険だ」として、地元の人身傷害専門弁護士ケヴィン・エイヴリー(ウィル・フォーテ)を雇い、巨大企業ACMEを提訴。しかし、ACME側の敏腕弁護士バディ・クレイン(ジョン・シナ)が立ちはだかる。しかもバディは、ケヴィンと因縁のある人物。こうして、コヨーテとACMEの長年にわたる因縁は、法廷論争へと発展する。
ルーニー・テューンズを知る人なら、コヨーテがどんな目に遭ってきたかはおなじみだろう。ダイナマイトが顔面で爆発し、ロケット靴が暴走し、仕掛けた罠はことごとく自分に跳ね返ってくる。本作が面白いのは、こうした昔ながらのカートゥーン・ギャグを、そのまま「ACME製品の欠陥を示す証拠」として扱ってしまうところ。これまで何十年にもわたって笑いのネタになってきた“コヨーテの不幸”を、「いや、それって企業側の責任なのでは?」と現代的な視点から再解釈している。
また、バディを演じるジョン・シナが、この世界観に見事に馴染んでいる。漫画から飛び出してきたような強さと自信を持つ悪役弁護士を、シナはどこか誇張された“カートゥーン的”なキャラクターとして演じている。人間の俳優とアニメキャラクターが同じ画面に存在する設定は、一歩間違えれば違和感につながりそうだが、本作では昔ながらのカートゥーンらしさが、独特の世界観をうまく支えている。そのため、不思議で奇妙ではあるものの、思っていたほど違和感なく物語を見ることができた。
そして本作の魅力は、単なるギャグ映画としては終わらないところにある。これまでのコヨーテは、どれだけ失敗しても、どれだけ痛い目に遭っても、またロード・ランナーを追いかける。ある意味では、それが彼の宿命だった。しかし本作では、そんなコヨーテの「負け続けても諦めない」という部分が、物語の大きな魅力になっており、どこか少年漫画的な要素も感じ取れる。何度倒されても立ち上がり、巨大な相手に挑み続ける姿に、思わず感動。最初はコミカルなキャラクターとして見ていたはずなのに、いつの間にか「今度こそ勝ってほしい」と応援してしまう。
そして、本作を語るうえで欠かせないのが、「一度お蔵入りになった映画」という事実だ。本作は当初、HBO Max向けの企画だった。その後、劇場公開向けに調整されていたものの、2023年、ワーナー・ブラザースが本作を劇場にも配信にも出さず、税務上の損失として処理する方針を選択した。DC映画『バットガール』など、同じように公開されることなくお蔵入りとなった作品もあるなか、本作もまた「完成した映画が観客に届けられない」という、ハリウッドの現実を浮き彫りにした作品の一つとなった。
ところが、本作はそれで終わらなかった。試写での反応がよかったことから、出演者のウィル・フォーテ、監督のデイヴ・グリーン、声優のエリック・バウザらが公開を求める動きに加わった。SNSでは「#ReleaseCoyoteVsACME」が拡散し、アニメ業界の賞では、バウザがダフィー・ダックの声で本作の公開を訴えるなど、単なる新作PRを超えた運動へと発展していった。そして最終的に、独立系配給会社Ketchup Entertainmentが世界配給権を取得し、公開へとたどり着いた。
ここまでの経緯を知ったうえで本作を観ると、巨大企業ACMEを相手に何度倒されても立ち向かうコヨーテの姿と、この映画自身がたどった運命が重なって見えてくる。一度はお蔵入りとなった本作も、さまざまな壁にぶつかりながら、最後には観客のもとへたどり着いたのだ。
『Coyote vs. Acme』は、北米公開初週末には3,575館で上映され、1,540万ドルを記録。週末ランキング2位でスタートした。Rotten Tomatoesでも、2026年9月2日時点で批評家スコア96%、観客スコア95%と、批評家・観客の双方から高い支持を得ている。「ハードコアなファンでも追い切れないほど内輪ネタとルーニー・テューンズへの言及が詰め込まれている」「賢く、テンポがよく、新鮮でばかばかしい」といった好意的なコメントが寄せられる一方、「ワーナーは一体、何を考えていたのか?」という声も見られた。
「公開されること」そのものが感動物語になった『Coyote vs. Acme』。日本での公開日は今のところ未定だが、この“諦めなかったコヨーテ”が日本のスクリーンにもたどり着くことを期待したい。
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