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ジェームズ・ガン監督『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3』解雇・再雇用を初めて語る ─ 「あの日は人生最悪の一日であり、人生最高の一日だった」

ジェームズ・ガン
Photo by Gage Skidmore https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/28557194032/

「言論の自由の問題ではない」

Deadlineの記者マイク・フレミング・Jr.氏は、以前のガン監督が、歯に衣着せぬ物言いで意見を発信する作り手だったことに言及。監督がディズニーによる解雇に一切コメントしなかったことを指摘し、「当時はどんなことを考えていましたか?」と尋ねている。

「僕は、自分が公の場で口にしたことを後悔しています。自分のジョークについて、自分のユーモアが標的にしたものについて、自分の発言に思いやりを持たなかったことで招いた想定外の結果について。僕の発言で傷ついた人がいること、また持つべき思いやりを持たなかった責任は今でも僕にあることを理解したんです。深く後悔し、全責任を負うことにしました。

それに、ディズニーには僕を解雇する権利がありました。これは、言論の自由の問題ではありません。僕は彼らが良しとしないことを言い、そして彼らには僕を解雇する権利があった。そこに議論の余地は全くないんです。」

ガン監督は解雇通告のあと、数週間はSNSを完全に断ち、自身にまつわる報道を見聞きすることもしなかったと語る。それでも家族や友人を介して、報道の内容はわずかに漏れ聞こえていたとのこと。しかし最後には、彼らに対しても「今はネガティブなことを見られないんだ、傷つくから」と伝えることになった。

「自分をあらゆるものから完全に切り離しました。すごくつらいことでしたが、自分が毎分ごとをしっかり生きているように思いましたし、やった価値はあったと思います。まったく違う視点から人生を見つめることができましたから。」

むろん、当時の精神状態は非常に過酷なものだったとみられる。監督は「自分自身に激しい怒りを覚えましたが、そこに意識を持っていかれてはいけないと思いました」とも話しているのだ。

「自分が過ちを犯したこと、人生で多くの過ちを犯してきたことが今に繋がっているのだと知りました。そして、新たな人生へと変えていかなくてはならないことに気づかなければなりませんでした。それは、自分をクビにした人間や、オンラインのリンクを拡散したり、あれこれと画像を編集した人間を攻撃する必要はないのだと思うことでもあったんです。そんな怒りも自分から切り離さなければ。さもないと、今回の出来事は乗り越えられなかったでしょう。」

解雇劇で知ったこと、学んだこと

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3』の解雇劇で(皮肉にも)明らかになったのは、ガン監督がハリウッドで信頼され、尊敬されるクリエイターであるということだった。ファンのみならず関係者が相次いでコメントを発表したことはもちろん、解雇直後にワーナー/DCが『ザ・スーサイド・スクワッド』をオファーしたことは、ガン監督の実力と人間性が高く評価されている証左だった。

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解雇が報じられた直後、『ゲット・アウト』(2017)などで知られる映画プロデューサーのジェイソン・ブラムは「すぐにジェームズ・ガンを雇いたい」と発言。ガン監督はこの事実を知り、自身のキャリアに関する恐怖心を和らがせたという。さらに解雇直後から、監督の元には複数のスタジオから電話が相次いでいたそうだ。

「いろんなスタジオが“一緒にお仕事をしたい”と言ってくださいました。だけど、僕にはそれが信じられなくて。理屈でいえば、“うん、僕にも未来があるからね”という話でしょう。僕は理論中心の人間で、だから助かったところもあるんですが…(当時は)感情面で、その話にすがりつくことができなかったんです。」

もっともガン監督は現在、すぐに別の仕事に飛びつかなかったことを「良いことだった」と分析している。「僕がすべきことは、キャリアをストップさせて、自分をさらに価値のある人間にすること、ありのままでも良い人間に変えていくことだったんですから」

さらにガン監督は、今回の解雇劇を通じて、人生で初めての経験を得られたことを明かしている。それはとてもパーソナルで、そして一人の人間として非常に根源的な体験だった。ガン監督は「それまでの僕は、あんなに深い愛情を感じたことがなかった」と話しているのだ。

「あの日から、僕が何よりも大切に考えていることがあります。この世界で金持ちになりたい、有名になりたい人たちは、お互いに愛情を向けてほしい。そもそも僕はアーティストで、物語を伝えることやキャラクターを関わらせること、セットをデザインすることが大好き。だけど同時に、自分が愛について考えていたことを知ったんです。みなさんに愛してもらったこと、また自分自身の仕事によって、そのことが分かりました。」

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス
写真:ゼータ イメージ

かつて、ガン監督は自分の生まれ育った家庭を「機能不全家族」と呼んだことがある。家族が酒びたりであったことを明かし、「あまりにも不十分だったが、心の中には愛情があふれていた家族」だと述べたのだ。その家庭環境は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』にも大きな影響を与えているという。

僕は人間関係や友人関係に問題を抱えています。誰かを愛する経験はできましたが、愛されることを知るのが困難な時期があった。当時、自分が愛情を感じるには、自分から(対象を)引き離すことしかありませんでした。だから、僕には本当に何もなくて、どうするべきなのかもわからなかったんです。引きこもってしまうべきだったんでしょうか。

それでも今回、本物の愛情をたくさん知ることができました。ガールフレンドのジェン、僕のプロデューサーとエージェント。クリス・プラットが電話をくれたのには驚きましたね。ゾーイ・サルダナとカレン・ギランは電話で泣いてくれましたし、シルベスター・スタローンもFaceTimeを繋いでくれた。それから、もちろんデイヴ・バウティスタも。彼は自分の意見をとても強く表明してくれました。友人や家族、この業界の人々から、僕は信じられないくらいの愛情を受け取りました。

そんな愛情を人生で初めて感じるため、今回の出来事は起こるべくして起こったのだと思います。自分が感じていた偽りの愛情は、全て消し去ってしまわなければいけないと感じました。だから、あの日(解雇を受けた日)は人生最悪の一日であり、人生最高の一日なんです。あれからずっと完璧な精神状態というわけではありませんが、それでも良い状態ではあるんですよ。」

インタビューの最後に、ガン監督は、人々のふるまいがSNSで監視・拡散され、社会的制裁を受ける人物もいる現状について、“復活”した側の視点で考えることを問われた。監督は「(現在の傾向からは)ポジティブなものもたくさん生まれていると思います。僕自身が学べたこともそのひとつです」と答えている。

人は失敗から学ばなくてはいけません。学習し、よりよい人間になる機会を奪うのだとしたら、逆に何を残しておくべきなのかがわからない。今回の出来事を通じて、僕は自分自身について、あらゆることを学びました。」

2019年5月現在、ガン監督は『ザ・スーサイド・スクワッド』の準備中。同作の撮影終了後、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3』の製作に取りかかるとみられる。

ガン監督「ロケットは僕そのもの」

Sources: Deadline, Newsday

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。