ハンス・ジマー日本を語る ─ 来日公演記念、単独ロングインタビュー
「アイデアが次々と湧いてきて、忙しいんですよ」。数々の有名映画の印象的な楽曲を手がけるドイツの巨匠ハンス・ジマーは、これで3度目となる筆者とのオンラインインタビューに親しげな笑顔で登場した。回線を繋いだのはジマーが楽曲制作を行うスタジオ。深い赤を基調に、ダークウッドの書棚に無数のライブラリが並ぶ。渋みある赤いソファ、暖色の照明。重厚かつクラシカルな書斎風のスタジオに、青いジャケットのジマーはスマホで何かを打ち込んでいる。「今、ちょうど大好きな映画のひとつに取り組んでいるところでね」。
ハンス・ジマー。数々の受賞歴を持つ、現代映画史上最も偉大で、最も変幻自在な映画音楽家。時に自然を感じさせるオリエンタルな風を吹かせることもできれば、電子楽器を用いて宇宙の彼方まで旅立つサウンドも繰り出し、民族音楽にインスパイアされたオーセンティックな音色から、ロックバンドのようなヘヴィネスまでも響かせる。
ジマーは常に、ハリウッドが最もその才能を必要とする音楽家であり続けている。ザック・スナイダー、ジョセフ・コシンスキー、ドゥニ・ヴィルヌーヴ、クリストファー・ノーラン……彼らの名作は、ジマーのスコアがあるからこそ格式を高めている。
そのジマーが2026年9月16日、横浜のぴあアリーナMMにて二度目となる待望の日本公演『Hans Zimmer Live – The Next Level』を開催する。初来日公演となったのは2025年、ジマーにとっても待望の地となった日本での2年連続のステージとなる。
単に有名映画音楽を演奏するだけではない。大勢の演奏者、歌唱隊が変わるがわるステージに登場し、次々とフォーメーションを組み、光と映像の豪華な演出とともに、めくるめく音の大冒険へと会場ごと誘う。光の中に立つ魔法使いめいたギタリスト、長髪を振り乱すスーパーヒーローのようなチェリスト、音色の別世界に誘う妖精のようなフルート奏者、風神雷神のごとく阿吽の呼吸でビートを刻む女性ツイン・ドラマー、都会の会場に遥かアフリカの夕陽を差し込ませるズールー語のソウル歌手、乾いた砂漠の狂気をスピリチュアルに歌い上げるソプラノ歌手、古の息吹で稲穂を揺らすオペラ歌手……。
そして、彼らの演奏を作り上げる張本人でありながら、まるで彼ら一人一人に誘われて、ふらりと遊びに訪れたさすらいの演奏家のように、ピアノやシンセサイザー、エレキギター、アコースティックギターと次々に楽器を取り替えて加わる主役、ハンス・ジマー。世界観が刻々と変わるステージの上、煌びやかなドレスやスーツ姿の楽器隊に混じって、この巨匠はシャツとデニム姿で、自らが時空を超えた案内人になるようにして、自身の名曲の数々を心から楽しそうに繰り出していく。

「私の周りには、世界でも最高レベルのミュージシャンたちがいます」とジマーは言う。「ときどき私は演奏するのをやめて、ただバンドを眺めていることがあります。彼らを見ていると、幸せになるんです」。
たとえば彼のバンドには、世界で最も偉大なギタリストの一人であるガスリー・ゴーヴァンがいる。「ガスリーは、自分のパートをいとも簡単そうに弾くところなんです。音符が1,000個くらいあるようなパートなのに(笑)。その横で、ほかのみんなが必死になって彼についていく。でも、みんなそれが大好きなんです。素晴らしいミュージシャンから挑戦状を突きつけられるというのは、良いことですから」。ゴーヴァンは今回の公演のため、有名な『パイレーツ・オブ・カリビアン』の新アレンジを手がけた。
日本人チェリストのMarikoも、昨年に引き続き出演する。センターパートやソロを務める機会も多いMarikoは、ハンス・ジマーのコンサートにおける準主役的な一人だ。
ジマーにとっては「Marikoなしで家を出るなんて考えられない」というほどの相棒で、互いに全く異なる文化出身であるにもかかわらず、兄妹のような関係なのだと話す。昨年のステージでも圧倒的な存在感を放った彼女が、今年も世界最高峰のバンドと共に日本凱旋を果たす。
ところで昨年、初めて日本の地で演奏したジマーは、我々観客について「とても礼儀正しい」と感じたという。その真意は、「もっと楽しんで!解放して!」という遊び心。世界中で公演を重ねるジマーにとって、「普段はものすごく騒がしいロックンロールの観客に慣れている」ためという。「私たちはステージの上で、子どもみたいに遊んでいるんですよ。音楽を“play”している。だから観客にも、その遊び心を感じてもらいたい」。
コンサートに参加予定の観客に向けて、何か気分を盛り上げるため“予習”を勧めたい楽曲があるなら?ジマーは「難しいな」と少し考えながら、新アレンジも加えたという『パイレーツ・オブ・カリビアン』のほか、『インターステラー』や『インセプション』の「Time」を挙げた。「最近、クリストファー・ノーランとよく話すことがあるから」という思い入れのためだという。ジマーとノーランのコラボレーションは『ダンケルク』(2017)が最後となっているが、彼らは今なお語り合いの場を持ち続けているということでもある。
今回の滞在では早めに到着し、観光の時間を設けるつもりという。「日本は、私たちの未来がどうなり得るのかを示している、とても良い例だと思います」とジマーは、日本の地を魅力的に感じているようだ。「私が訪れたのは大都市でしたし、本当に大勢の人がいる。それなのに、みんながお互いのための空間をきちんと見つけながら暮らしているんですよね。そこには、西洋にはない礼儀正しさがあります。西洋にそれがないのは、文化的には惨事と言っていいくらいです。人間性や他者への共感という意味で、日本は私たちよりずっと先に進んでいると思います」。
9月16日の大規模な来日公演に先駆け、THE RIVERではハンス・ジマーに単独インタビューを敢行。ここでは、その全文をお届けするほか、インタビューの様子を完全収録した動画も掲載する。公演に向けて、巨匠との会話をお楽しみいただきたい。
ハンス・ジマー「Hans Zimmer Live – The Next Level」日本公演 単独インタビュー
──今日はお時間をいただきありがとうございます。とてもお忙しいと思いますが、いかがお過ごしですか?
元気ですよ。すごく忙しくしています。アイデアが次々と湧いてきていて。今ちょうど大好きな映画のひとつに取り組んでいるところなんです。
何かアイデアを思いつくと、もうそれだけをやりたくなってしまうんですよね(笑)。でも大丈夫。ちゃんと集中します。このインタビュー、光栄です。
──今年また日本にいらっしゃいますね。僕は昨年の公演も鑑賞させていただきましたが、本当に素晴らしかったです。人生でも指折りのコンサート体験でした。今でも興奮が残っています。昨年が日本初公演ということになりました。
ええ、そうです。それ以前に日本へ来たことは一度だけあったんですが、プレスツアーで3日間いただけでした。日本で演奏するのは本当に楽しかった。すごく気に入りました。今回は私とガールフレンドで少し早めに行って、いろいろ見て回ろうと思っています。
日本という国も、その文化も本当に美しいし、とても魅力的です。私の心に深く触れる何かがあるんですよ。

──昨年のステージで、特に心に残っている瞬間はありますか?あるいは、日本の観客から感じたことは?
皆さん、とても礼儀正しいですよね。……ちょっと皮肉を込めて言っています(笑)。私は普段、ものすごく騒がしいロックンロールの観客に慣れているので、「もっと楽しんで! 解放して!」と思うんです。私たちはステージの上で、子どもみたいに遊んでいるんですよ。音楽を“play”している。だから観客にも、その遊び心を感じてもらいたい。
もちろん、日本の皆さんにもそれができることは知っていますよ。私は昔、イエロー・マジック・オーケストラとも仕事をしていましたから。本当に楽しかった。高橋幸宏さんや皆さん、素晴らしい人たちでした。
──コンサート以外で日本を見て回った体験はいかがでしたか?


























