『オデュッセイア』で物議の現代アメリカ英語、ノーランが説明「観客が触れやすい、原作を知らない人のための映画に」

クリストファー・ノーラン最新作『オデュッセイア』は、予告編の公開時から、一部では早くも物議を醸していた作品だ。古代ギリシャの詩人・ホメロスによる叙事詩を映画化するのに、なぜ現代のアメリカ英語が使われているのかと。
予告編でとりわけ注目されたのは、主人公オデュッセウスの息子テレマコスや、権力を求めるアンティノウスが、父親を指して“dad”や“daddy”と口にすることや、オデュッセウスが味方の兵士を奮い立たせるときに“Let’s go!(行くぞ!)”と叫ぶことだ。米The Hollywood Reporterでは、古代ギリシャのイタケ(Ithaca)ではなくニューヨーク州のイサカ(Ithaca)のようだ、スターバックスの外で話しているようだ、という声が紹介されている。
この問題は、昨今、日本でも時代劇のセリフがしばしば現代語で書かれ、同じく物議を醸していることにも似ている。なぜ、ノーランは現代アメリカ英語のセリフにこだわったのか?
米Los Angeles Timesのインタビューで、ノーランは「ホメロスはとても優れた共同脚本家でした」とジョークを口にしながら、翻案にあたっては「知的な意味合いではなく、感情的に訴えかける言葉」を求めたと語っている。
「ちょっと単純だったかもしれないし、痛い目を見るのかもしれませんが、生身の手ざわりがある物語にしたかったのです。そこに迷う余地はなかった。ホメロスの時代もそうであったように、現代の観客が触れやすい作品にするため、新鮮かつ、現代的なかたちで語りたいと思いました。」
ハリウッドには、『グラディエーター』(2000)や『ベン・ハー』(1959)のように、歴史映画を撮るときはイギリス英語を使うべきだという暗黙のルールがあり、『オデュッセイア』はそこから大きく逸脱している、と同じくThe Hollywood Reporterは指摘する。テレマコス役のトム・ホランド、アンティノウス役のロバート・パティンソン、そしてノーラン自身もイギリス人だが、セリフはすべてアメリカ英語に統一されていると。
しかし、そもそもホメロスの書いた『オデュッセイア』は古代ギリシャの叙事詩である。たとえイギリス英語で映画化したところで、本来の文体とは大きくかけ離れている──すなわち、ここにあるのは原典への正確性というよりも「観客が慣れ親しんでいる形式ではない」という問題だ。


ノーランは、「私は翻案が大好きです」と米Reuterの取材で語っている。「ホメロスやこの叙事詩について、何も知らない人たちのために、この映画を作りました。同時に、その世界に強い関心や愛情を抱いている人たちのためにも。誰にとっても通用するものにしなければなりません」
このことは、バットマンという長い歴史をもつスーパーヒーローの映画化に挑んだときにも通じるものだ。「『ダークナイト』3部作でも、キャラクターへの情熱を抱いている、コミックに詳しい方々のために、また人生で一度もコミックを開かない人たちのために映画を作りました」という。
「まったく別の話ではありません。原典の精神に忠実でありながら、何かを加えようとする。『オデュッセイア』が意味するものに関する、3,000年におよぶ文化的な議論に、少しだけ何かを加えようとするわけです。バットマンのときも、当時すでに75年というコミックの歴史があるなかで、キャラクターに少しだけ何かを加えようとした。それまでにあったものの上に築きあげつつ、後々まで記憶されるものにしたかったのです。」
『オデュッセイア』の翻案は、ノーランにとってもチャレンジだった。ホメロスを知る人には伝わるものを、よく知らない観客にも伝えなければならない。「映画として必要なものが、(原作の)叙事詩には含まれていない。そこは私たちの手で準備しなければいけなかった」という。「だんだんわかってきました。自分が叙事詩を体験したときの印象を伝えるには、多少の自由が必要で、変えなければいけないこともあるのだと」
映画『オデュッセイア』は2026年9月11日(金)全国公開。
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Source: Los Angeles Times, Reuter, The Hollywood Reporter




























