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【レビュー】『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』地に足着いた、スパイダーマン映画の精神的集大成 ─ なぜだろう、歴代作品を思い出す

スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ

予告編でも明かされている通り、MCUとの楽しいクロスオーバー要素ももちろん健在だ。あくまでもピーターから主役の座を奪わない形で、個性的なゲストたちが物語を盛り立てる。

ハルク/ブルース・バナーには『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)後の状態について興味深い新たな解釈が与えられる。ハルクと化した姿で『アベンジャーズ』(2012)や『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)以来とも言える圧倒的な破壊アクションを披露する。

一方、ブルースとしてピーターと向き合う場面では、力と知性を持ちながら、その扱い方に苦悩してきた人物ならではの説得力を見せる。同役を熟知したマーク・ラファロと、若く優秀な学生を演じるトム・ホランドの掛け合いは、『スパイダーマン2』における、まだ善良だったオットー・オクタビアス博士とピーターの交流を思わせる。

パニッシャー/フランク・キャッスル役ジョン・バーンサルとの共演シーンは、全てが純然な喜びだ。同じ世界観のニューヨークを主戦場としながらも、R指定の過激なバイオレンスアクションを披露してきたパニッシャーが、清く正しいスパイダーマンの映画の中で、心地よく見応えのあるミスマッチ感を演出している。

MCU版スパイダーマン映画には毎作メンター役が登場するが、パニッシャーはこの年下を相手に喧嘩も繰り広げながら、ヒーローとしての本分を理解し、彼の“流儀”も示してやる。演じたホランドとバーンサルは長年の共演仲間だ。なるほど劇中では、本当にキャラクター同士が同じ空間で息をしているような、生き生きとした2人芝居を見せてくれる。

スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ
(C)& TM 2026 MARVEL

何より驚かされたのが、MJ役のゼンデイヤ、ネッド役のジェイコブ・バタロンを含めた、トム・ホランドたちの成熟ぶりだ。“世界の孫”や“ネタバレ王子”と親しまれたホランドだが、本作での姿はピーター・パーカー役としてすっかりベテランとなった技を絶え間なく披露。変わらぬ愛嬌もありながら、世界にたった1人残された孤独、居場所のない不安、ヒーローとしての覚悟、抑えられない怒り、そして愛する人々を前にした時の、ふと優しい笑みに至るまで、心情を豊かに読ませるような完璧な芝居を運んでいる。パートナーでもあるゼンデイヤが演じるMJとのとある共演シーンでは、唸らされるほど見事なハーモニーを演出している。

スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ
(C)2026 CPII. All Rights Reserved.(C)& TM 2026 MARVEL

謎の役を演じるセイディー・シンクも、限られた情報のなかで強い存在感を放つ。彼女のキャラクターには、この人物でなければならない理由が用意されており、スタジオが詳細を伏せ続けたことにも納得がいく。将来への布石でありながら、本作の物語にもきちんと居場所を与えられているのが好印象だ。

『ノー・ウェイ・ホーム』のようなド派手なサプライズに頼らず、ほとんど正面突破で勝負する、力強く潔い映画である。孤独や自己否定などを内省する点は『サンダーボルツ*』(2025)にも通じるところがある。本作が最終的に選ぶ着地は、観客によって受け止め方が分かれるかもしれない。それでも、スパイダーマン/ピーター・パーカーの単独映画として、シリーズ屈指のアクションとドラマを提供していることは間違いない。「これが観たかった」と心から思えるものを、最高水準で届けるMCU映画だ。

過去作のスパイダーマンやヴィランが実際に集結した『ノー・ウェイ・ホーム』が、人物と世界を一堂に会した集大成だったとすれば、『ブランド・ニュー・デイ』は、歴代作品の精神を受け継いだ、別種の集大成である。サム・ライミ版で描かれた能力の喪失や暴走、アイデンティティの葛藤。『アメイジング・スパイダーマン』での、痛みを引き受ける責任と覚悟を内包する、どこかヘヴィなトーン。さらに、ゲーム『Marvel’s Spider-Man』にインスパイアされたウェブアクションとフィニッシュムーブの美学。コスチュームのデザインも、ピーター2&ピーター3版へのオマージュがなされているという。視覚と、テーマ性と、アクションにおいて、ゲーム版を含む全てのスパイダーマン作品のさりげない要素が、不思議と重なって見えてくる。

スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ
(C)2026 CPII. All Rights Reserved. (C)& TM 2026 MARVEL

べつにノスタルジーやオマージュを押し出しているわけでは、まったくない。過去作の名前やイメージを直接引用してわかりやすい感動を狙うのではなく、長年の間にファンの心に積もっていたスパイダーマン映画の精神性やメッセージが、観る者の中で自然と再現される。

今回のスパイダーマンは、マルチバースを接続する案内役でも、MCUの次なる展開へ観客を運ぶための繋ぎ役でもない。紛れもなく、スパイダーマン映画のただ一人の主人公として、観客の期待をクモ糸一本で引っ張り上げている。前作のサプライズ規模を更新しようとせず、ユニバースの都合に物語を従わせてもいない。ただ純粋に、かっこよくて、優しくて、共感できるスパイダーマン/ピーター・パーカーを堂々と描く、親愛なる原点回帰作。本作を「地に足着いている」と呼ぶのは、そういう所以である。

『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』は公開中。

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者、運営代表。執筆・編集から企画制作・取材・出演まで。数多くのハリウッドスターに直接インタビューを行なっています。お問い合わせは nakataniアットriverch.jp まで。

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